婚姻費用と養育費はどう違う?婚姻費用分担請求ができるケースや金額の決め方について解説

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    2023/10/12

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    2023/10/12

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婚姻費用と養育費はどう違う?婚姻費用分担請求ができるケースや金額の決め方について解説
「夫が、突然荷物をまとめて出て行って、生活費がもらえない。私はパートタイムで働いているが、私の収入だけでは子どもと生活できない。別居していても夫に生活費を支払うよう請求できないか」

別居後、自主的に生活費(これを、法的に「婚姻費用」といいます)の分担に応じない配偶者は少なくありません。
しかし、別居していても結婚していることに変わりはありませんから、妻は夫に対して、婚姻費用の分担を請求できます。

今回は、婚姻費用と養育費の違いや、婚姻費用の決め方などについて解説します。

婚姻費用とは?含まれる費用の内訳

夫婦は、互いに同居し協力して扶助し合う義務があります(民法第752条)。
また、夫婦の婚姻期間中は、家族がその資産・収入・社会的地位などのさまざまな事情に応じた通常の社会生活を維持するために必要な生活費(これを、法的に「婚姻費用」といいます)について、夫婦が互いに分担するものとされています(民法第760条)。

婚姻費用には、通常の家族が生活するために必要な費用が含まれます。具体的には、衣食住の費用、医療費、未成熟子(経済的・社会的に自立していない一般的に20歳以下の子ども)の生活費、公立学校の学費などです。

夫婦が円満に同居している場合、夫婦のルールで生活費をそれぞれ分担していますので、この婚姻費用の分担が問題となることはほとんどありません。
しかし、夫婦間にトラブルがあり別居となる場合には、この婚姻費用について、誰が誰に支払うのか、いつからいつまで支払うのか、いくら支払うのかが争いになり、問題となります。

一般的に、婚姻費用を請求し、受け取る側を「権利者」、婚姻費用の請求を受け、支払う側を「義務者」と呼びます。
基本的には、資産や収入が多く、より支払能力のあるほうが、より多くの婚姻費用を負担することになります。そのため、実際は収入の低い側が、高い側に請求することがほとんどです。

婚姻費用と養育費の違いとは?

婚姻費用は、法律上婚姻関係にある夫婦で分担する家族の生活費のことをいいます。
夫婦が婚姻関係にあれば、法律上互いに生活を助け合う義務(扶養義務)がありますので、同居中のみならず別居中であっても、婚姻費用として生活費を分担しなければなりません。

一方で、養育費は、離婚後に両親の間で分担する未成熟子の生活費のことをいいます。
養育費は、離婚後、実際に子どもを引き取って養育する親に対して、子どもを引き取らない親が支払います。

婚姻費用は、子どもの生活費に加えて夫婦の生活費も分担しますので、一般的に、子どもの生活費の分担だけとなる養育費よりも高くなります。

婚姻費用の分担請求とは?

婚姻費用の金額や支払方法は、お互いの収入や子どもにかかる教育費などを考慮して、まずは夫婦の話合いで決めます。
婚姻費用は、婚姻中の日々の生活費として必要となるものですから、「誰から誰に、毎月何日までにいくら支払う」、「同居再開または離婚まで支払う」などと合意します。

夫婦間で話し合っても金額の合意ができないとき、または話合い自体ができないときは、家庭裁判所に婚姻費用分担の調停・審判を申し立てることができます。
通常は話合いでの解決を前提とする調停を先に申し立てますが、別居先が遠方である場合などでは、裁判所に結論を決めてもらう審判を申し立てることもあります。

これは、調停の場合、原則として相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てなければならないのに対して、審判の場合は、自分の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てることができるからです。
ただし、審判を申し立てたとしても、家庭裁判所は、職権で調停に変更することができますので、調停手続となることが多いです(家事手続法第274条1項)。これは、家庭内の婚姻費用の分担について、まずは調停で当事者同士が話し合うべきと考えられているためです。

調停では、調停員が当事者双方の主張や考えを聞き、収入や生活状況、子どもにかかる費用などの資料の提出を求めたりして、話合いを継続します。
調停において金額や支払方法などの合意ができた場合、調停は成立します。
調停の場で話し合っても解決できない場合には、審判に移行し、裁判所が、妥当と考える婚姻費用の分担額について判断することになります。

基本的に、婚姻関係にある以上は婚姻費用の分担を求めることができますが、例外的にできないケースもありますので、それぞれについて説明します。

(1)婚姻費用の分担請求ができるケース

夫婦が別居する理由はさまざまです。
たとえば、以下の場合も、夫婦が婚姻関係にあれば、別居していても婚姻費用の分担請求が可能です。
  • 夫婦げんかをして冷静になるために一時的に別居する場合
  • 一方的に突然別居されたが離婚は希望しない場合
  • 離婚予定だがしばらく別居する場合 など
なかには、同居中だけれども、生活費をもらえずに困っている方もいるかもしれません。しかし、この場合、一概に婚姻費用の請求ができるかどうかを判断することはできません。
現金として生活費を渡されていないだけで、住居費や光熱費、通信費などは支払っている場合もあり、それを考慮すると適切な額の婚姻費用を分担しているといえるケースもあるためです。

したがって、夫婦のそれぞれの生活費の負担内容や双方の収入などを考慮し、その分担が不十分といえれば、足りない部分については婚姻費用を請求できる可能性があります。
しかし、同居しているため請求する側に別居前提の住居費などはかかりませんので、別居している場合に認められる婚姻費用に比べると、低くなることが多いと考えられます。

(2)婚姻費用の分担請求ができないケース

例外的に、婚姻費用の分担請求をする側(権利者)による分担請求が認められないケースがあります。
たとえば、権利者に夫婦の婚姻関係が破綻したことについて主な責任があるケースでは、請求は信義誠実の原則に反する、または権利の濫用であるとして認められない場合があります。

これは、権利者が自らの義務違反を棚に上げて、相手に対して婚姻費用の支払うよう求めるのは許されない、と考えられているためです。

「信義誠実の原則(信義則)」とは法原則の一つで、相手方の信頼や義理に背かず誠意をもって行動しなければならないという原則を指し、民法第1条2項に規定があります。
「権利の濫用」も法原則の一つで、権利であってもその濫用は認めないという原則を指し、民法第1条3項に規定があります。
権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
引用:民法1条2項
権利の濫用は、これを許さない
引用:民法1条3項
このように、権利であっても、その権利の行使が無制限に認められるものではなく、信義則や権利濫用の観点から、権利の行使が制限されることがあるのです。

実務においては、権利者の有責性が明白かどうか、という点が重要です。典型的なケースは、権利者の不貞の客観的証拠がある場合です。

権利者が子どもを引き取って監護していない場合で、権利者の有責性が明白であり信義則や権利濫用が認められると、婚姻費用の分担を求めることはできません。
一方、権利者が子どもを引き取って監護している場合では、権利者の有責性が明白であり信義則や権利濫用が認められても、子どもに責任はありませんから、自分の分の生活費を請求できる権利は制限されますが、養育費相当額の婚姻費用の分担が認められることになるでしょう。

婚姻費用を請求できる期間(始期と終期)

それでは、婚姻費用は「いつから、いつまで」請求できるのでしょうか。
また、過去婚姻費用をもらっていない期間がある場合、過去の分も支払いを求めることができるのでしょうか。

家庭裁判所の調停・審判では、婚姻費用の始期について、「申し立てた時点」とする例が多いです。
したがって、夫婦で婚姻費用について合意できない場合には、速やかに調停を申し立てるようにしましょう。
これは、長い時間をかけて話し合った結果合意できない場合、その後すぐに調停を申し立てたとしても、話し合っていた期間(過去)の未払いの婚姻費用は受け取れない可能性が高くなるためです。

また、婚姻費用の終期については、離婚すると婚姻費用を請求できる権利を失い、同居を再開すると婚姻費用の適切な金額が変わるため、「離婚が成立したときまたは同居を再開したとき」とするのが一般的です。

婚姻費用の金額の決め方

婚姻費用は、日々の生活費に利用されますから、一般的に月額で請求します。
まずは夫婦の話合いで合意を目指しますが、合意できない場合には家庭裁判所に調停・審判を申し立てることになります。

相手方が収入の根拠を示さなかったり、話合い自体を拒否したりするなど、当事者同士での話合いが難しい場合には、速やかに調停を申し立てましょう。

婚姻費用については、「この金額でなければならない」という決まりはありません。ただし、典型的な家族について妥当とされる婚姻費用の金額は、裁判所が公表している「養育費・婚姻費用算定表」で把握することができます。

算定表では、両親の年収を、それぞれ縦軸と横軸に当てはめると、交差するマスが標準的な婚姻費用の額を示すようになっています。
算定表は、子どもの数と子どもの年齢別に複数存在しますので、自分のケースに当てはまる算定表を参考にしてください。
実務でも、当事者同士が話し合う場合や話合いが成立せずに調停・審判となる場合に、この「養育費・婚姻費用算定表」が広く利用されています。

配偶者が婚姻費用を支払ってくれない場合の対処法

話し合っても婚姻費用について合意ができない、突然出ていって話合い自体応じてもらえないなど、配偶者から婚姻費用をもらえない場合には、速やかに(その月のうちに)調停または審判を申し立てるようにしましょう。
実務においては、調停または審判を申し立てたときから婚姻費用の支払いを認めるものが多く、必ずしも過去分の婚姻費用の請求ができるものではないためです。

婚姻費用がもらえない場合には、一人で悩まずにすぐに弁護士に相談し、速やかに調停や審判などの適切な手段を取ってもらうようにしましょう。

婚姻費用に関する疑問&回答

婚姻費用に関するよくある疑問について紹介していきます。

(1)別居中の家賃や住宅ローンを一方が負担している場合、婚姻費用はどうやって決まるの?

夫婦が別居すると、住居費や光熱費など生計が2つに分かれるため、それぞれの収入などを考慮したうえで、婚姻費用の分担割合を判断することになります。
それぞれが別居後の自分の生活費を負担していることを前提に、婚姻費用の分担を決めますので、一方が相手方の住居費や住宅ローンなどで生活費の一部を負担している場合には、基本的に、婚姻費用を決める際に影響すると考えられます。

婚姻費用を請求する側を権利者、婚姻費用を支払う側を義務者として、ケース別に説明します。

(1-1)権利者が住んでいる住宅の住宅ローンを義務者が支払っている場合

この場合、義務者は権利者の住居費を支払っているとして、支払う婚姻費用が通常よりも安く済むのかどうかが問題となります。

原則として、義務者の負担により権利者が住居費を負担せずに済んでいますので、権利者にかかる生活費は住居費の分安くなります。
したがって、一定の住居費を婚姻費用から減額する方向で考慮します。

住宅ローンの支払いは、権利者の住居費を支払っている側面もありますが、義務者が資産を形成するという側面もありますので、ローン支払額の全額を婚姻費用から減額するのではなく、一部の減額にとどめることが多いです。

ただし例外的に、権利者が無収入で、義務者の別居の責任が大きい場合には、住宅ローンの支払いを考慮しないこともあります。

(1-2)権利者が住んでいる住宅の住宅ローンを権利者が支払っている場合

この場合、権利者が住宅ローンの支払額を上乗せした婚姻費用の支払いを求めることができるのかどうかが問題となります。

原則として、婚姻費用の計算にあたって、権利者が自分で住んでいる住宅の住宅ローンを支払っていることは考慮されませんので、上乗せして請求することはできません。

また、自宅の名義の大半が義務者である場合でも同様と考えられています。
権利者が住宅ローンを負担している事情は、夫婦の財産形成の意味合いが強いため、離婚時の財産分与などで清算されるべきと考えられているためです。

しかし、義務者が自らの住居費を全く負担していない場合には、例外的に別の考慮もあり得るとされていますので(松本哲弘『婚姻費用分担事件の審理―手続きと裁判例の検討』家月62巻11号69頁)、弁護士に相談してみるとよいでしょう。

(1-3)義務者が権利者の家賃を負担している場合

この場合、義務者は、権利者の住居費を支払っているとして、支払う婚姻費用が通常よりも安く済むのかどうかが問題となります。

原則として、義務者の負担により権利者が住居費を負担せずに済んでいますので、権利者にかかる生活費は住居費の分安くなります。
したがって、一定の住居費を婚姻費用から減額する方向で考慮します。

また、家賃の支払いは、住宅ローンとは異なり資産形成の側面はありませんので、家賃相当分を婚姻費用から差し引くことになります。
家賃相当分が婚姻費用の標準額を上回る場合には、原則としてそれ以上の婚姻費用を分担する義務はありません。

(2)婚姻費用はどれくらいもらえるの?

婚姻費用については、夫婦にかかる生活費やそれぞれの収入、子どもにかかる教育費などを考慮して、話合いで自由に決めることができます。
しかし、金額について争いがあるからという理由で、いつまでも婚姻費用が受け取れない事態は避けなければなりません。

そこで、実務においては、裁判所が公表する「養育費・婚姻費用算定表」を利用して標準額を算定し、それを基準として婚姻費用について話し合って迅速な解決を目指すことが多いです。

たとえば、母親が専業主婦で所得なし、父親の給与所得が500万円、子どもが2人(2歳、7歳)のケースでは、下記の算定表を見ると、婚姻費用の標準額は12万~14万円(12万円に近づく方向で調整される)となります。

(3)婚姻費用の分担請求を行う場合、費用はどのくらいかかる?

家庭裁判所へ婚姻費用の分担請求の調停・審判の申立てを行う場合には、次の費用がかかります。
  • 収入印紙 1,200円
  • 連絡用の郵便切手(家庭裁判所によって違うので、申し立てる家庭裁判所に確認する)
  • 戸籍謄本取得費用(役所によって異なる)
手続を弁護士に依頼する場合は、弁護士費用も別途かかります。
弁護士によって費用や費用形態が異なりますので、依頼する前によく確認するようにしましょう。

【まとめ】婚姻費用の分担請求に関する相談は弁護士へ

婚姻費用の話合いがまとまらない場合は、速やかに調停・審判を申し立てる必要があります。
自分で手続への対応が難しい、相手と冷静に話ができるか自信がない、仕事をしていて忙しいなどの事情がある方は、弁護士に依頼する方法もあります。

弁護士は依頼者の方の話を聞き、依頼者の方の立場に立って法的主張をまとめ、適切な書面や資料を準備して婚姻費用の支払いを求めることができます。

また、本人が仕事などでやむを得ず期日に欠席せざるを得ない場合は、代理人として本人の代わりに調停や審判に出席したり、本人とともに期日に出席して調停員や裁判官と話をするのをサポートしたりすることもできます。
婚姻費用についてお困りの方は、まずはお気軽に弁護士までご相談ください。

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この記事の監修弁護士

慶應義塾大学卒。大手住宅設備機器メーカーの営業部門や法務部での勤務を経て司法試験合格。アディーレ法律事務所へ入所以来、不倫慰謝料事件、離婚事件を一貫して担当。ご相談者・ご依頼者に可能な限りわかりやすい説明を心掛けており、「身近な」法律事務所を実現すべく職務にまい進している。東京弁護士会所属。

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