「会社を辞めたいのに、引き止めがすごくて辞められない…」
労働者自身が会社を辞めるという決意をした以上、会社に労働者を縛り付けておく権利はなく、労働者は自由に会社を辞められるというのが原則です。
しかし、実際には会社の強引な引き止めがあり、スムーズに退職できないケースもあります。そうした場合に無理を貫いて退職をすると、後になってトラブルとなってしまう可能性もあります。
違法な退職の引き止めに応じる必要はありませんが、会社と話し合うなどして、なるべくトラブルの種を残すことのないよう手続きを進めていく必要があります。
この記事を読んでわかること
- 退職引き止めが違法となる場合
- 違法な退職引き止めにあったときの対処法
- 未払い残業代を請求したいときは退職前に準備すること
など、退職引き止めに関する問題について、解説していきます。
ここを押さえればOK!
原則として、無期雇用の場合は2週間前に退職の意思を伝えることで、自由に退職できる権利がありますので、違法な引き止めには応じる必要はありません。
また、有期雇用の場合は期間中は退職できませんが、やむを得ない事情があったり、雇用から1年以上経過しているときは退職することができます。
具体的な違法な引き止めの例としては、後任がいないから退職を認めない、給料や退職金を支払わない、有給休暇を認めない、離職票を発行しない、懲戒解雇として扱う、損害賠償を請求するなどがあります。
これら強引な引き止めのケースに応じて、適切な対処法を取る必要があります。
自分で会社と話し合うのが困難な場合には、弁護士に退職代行を依頼することをお勧めします。
弁護士は労働者の代わりに退職の意思を伝えるだけでなく、未払いの残業代の請求や退職前に損害賠償を請求された場合の交渉なども行うことができます。
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中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
【原則】労働者は自分の意思で自由に退職できる
労働者には、会社との労働契約を解除する自由、すなわち「退職する自由」が民法で認められています。
ただし、労働契約に期間の定めがあるかないかによって、法律上どのタイミングで自由に退職できるかが異なりますので、それぞれ説明します。
(1)期間の定めのある労働契約の場合
派遣社員や契約社員だと、雇用期間が「1年間」など定められていますが、これを期間のある労働契約(有期雇用契約)といいます。
期間の定めのある労働契約(有期雇用契約)の場合には、基本的に、期間の途中で退職することができません。
ただし、民法上、「やむを得ない事由」がある場合には、期間途中でも退職が認められます(民法628条)。
「やむを得ない事由」とは、例えば次のような場合です。
- 就労が難しい程度の労働者の病気や怪我
- 家族の介護
- 妊娠や出産
- 給料の未払い
- 違法性のある長時間労働
- 劣悪な労働環境 など
また、契約期間の初日から1年を経過した後は、「やむを得ない事由」かどうかにかかわらず、いつでも退職することができます(労働基準法附則137条)(※)。
※一部の労働者(専門職・高齢者)を除きます。
ただし、民法上、退職に至る原因が労働者の過失(不注意や落ち度)によるものであったときは、会社に対して損害賠償責任を負うと定められている点には注意が必要です。
とはいえ、会社から「損害賠償を請求します」といわれることがあったとしても、ほとんどが単なる脅し文句にすぎず、仮に訴訟になったとしても会社からの損害賠償請求が認められることはほとんどないので(事情によっては認められることもある)、必要以上に怖がる必要はありません。
(2)期間の定めのない労働契約の場合
いわゆる正社員や無期契約社員は、期間の定めのない労働契約(無期雇用契約)を結んでいます。
期間の定めのない労働契約を結んでいる場合には、2週間前に退職の意思を告げることで、労働者は理由を問わず退職することができます(民法627条1項)。

2週間というのは、営業日基準ですか?
いいえ、営業日基準ではありません。
単なる日数を基準とします(土日祝日も含みます)。
(3)退職時期は就業規則に記載があるケースも
法律上のルールはご説明したとおりですが、退職時期について会社の就業規則に定められていることも多いです。
就業規則がある場合、法律上のルールとどちらが優先するのでしょうか。
ケース別に説明します。
(3-1)期間の定めのある労働契約の場合
期間の定めのある労働契約の場合、法律上、原則として期間中は退職できず、やむを得ない事由があるときのみ退職することができます。
ただし、就業規則で別途、「1ケ月前に退職意思を伝えて退職することができる」などと定められているケースもあります。そのような場合には、民法と就業規則どちらが優先するのでしょうか。
民法は労働者を保護する規定ですので、就業規則で、民法以上に労働者に有利な決まりを置くこともできます。
したがって、このような場合、就業規則の通り、労働契約の期間中でも退職することができます。
(3-2)期間の定めのない労働契約の場合
期間の定めのない労働契約の場合、法律上、2週間前に退職の意思を明らかにすれば退職することができます。
しかし、就業規則で別途「3ヶ月前に退職届を提出する」などと定められているケースもあります。
上述のとおり、民法は労働者を保護する態度をとっていますから、就業規則で、民法よりも労働者に不利な決まりを置いたとしても、民法が優先します。
民法は退職に必要な予告期間を2週間と定めており、就業規則でこれを大幅に超える長い予告期間を規定した場合は、退職の自由を制限するものとして、無効となる可能性が高いでしょう。
ですから、退職しようとする際、就業規則で定められている予告期間が民法よりも大幅に長い場合でも、悲観せず、そのような就業規則の規定が無効であることを主張して早期退職を交渉してゆくのがよいでしょう。
【具体例】違法な引き止め
会社に退職の意思を伝えると、「必要な人材だから考え直してほしい」などと引き止められることがあります。それにより、退職を思い直す人もいます。
職場と労働者の話し合いにより、労働者が納得して退職を思い直すことに法的な問題はありません。
しかし、会社側が労働者に対して、強引な引き止めをする行為は違法となります。
次では、違法な引き止めにあって退職できない場合の対処法を説明します。
(1)後任がいないから退職は認めない


上司から「後任が見つかるまでは、なんとか頑張ってくれないか」などと、言われ、「自分の都合で会社に迷惑をかける」という罪悪感から仕事を辞めずに頑張る人もいます。
しかし、労働者の退職は通常起こりうることであり、後任を見つけられないのは会社の都合でしかありません。
「後任が見つかるまで辞めないでほしい」というのも会社の願望に過ぎず、法的に強制することはできません。
原則通り、労働者は2週間前に退職の意思を告げることで、理由を問わず退職することができます(民法627条1項)。
会社によっては、「退職届を受理しない」などと言うケースがありますが、そもそも会社には「受理する」「しない」の選択権はありません。労働者が一方的に退職の意思を告げさえすればよいのです。
もし会社があくまでも退職届を受け取らない場合は、配達証明付きの内容証明郵便で退職届を送ればよいでしょう。そうすることで、万一、後々会社から「退職届を受け取っていない」などと言われたときに、反論するための証拠となります。
自分で強く言いにくいという方は、弁護士に退職代行を依頼することをお勧めします。弁護士があなたの代わりに退職の意思を伝えるだけでなく、有休消化の希望を伝えたり、未払いの残業代を請求することもできます。
(2)辞めるなら退職金も、今月分の給料も支払わない

会社があなたを引き止めるために、「辞めるなら給料や退職金を払わない」など半ば脅しのようなことを言ってくるかもしれません。
しかし、すでに発生している給料を支払うのは、会社の義務です(労働基準法24条)。
発生している給料を支払わないと、会社は罰金を科せられる可能性があります(労働基準法120条)。
また、退職金規程等が存在し、これにより労働者が会社から退職金を受給できるのであれば、退職金の支払いも会社の義務となります。
こうした会社に義務があることを無視し、退職を引き止めるため、退職金も、今月分の給料も支払わないとすることは違法といえます。
原則通り、労働者は2週間前に退職の意思を告げることで、理由を問わず退職することができます(民法627条1項)。
会社側が退職届を受け取らないなどした場合には、退職の意思を告げたことの証拠にするために、内容証明郵便で退職届を送るとよいでしょう。
退職後、本当に給与や退職金が支払われなかった場合には、泣き寝入りせず、毅然と支払いを求めるようにします。
しかし、そのような理不尽なことをいう会社側とは、話をするのも怖いという方もいるかもしれません。そのような場合は、弁護士に退職代行を依頼することを検討してみましょう。弁護士があなたの代わりに退職の意思を伝えるだけでなく、有休消化の希望を伝えたり、未払いの残業代を請求することもできます。

(3)有給消化は認めない

有給休暇の取得は、労働基準法で規定された労働者の権利です(労働基準法39条)。
退職の意思を告げたからといって有給取得の権利は消滅しません。なお、会社は、事業の正常な運営を妨げる場合、労働者が有給休暇を取得する時季を変更することができます。これを時季変更権といいます。
この時季変更権は、労働者が退職するときには行使できないとされています。退職日まで数ヶ月あれば別ですが、例えば、退職日まで1ヶ月程しかなく、有給休暇が20日以上残存している場合、労働者が別の時季に有給休暇を取得することは物理的に不可能だからです。
ですから、もし退職する際に、会社が時季変更権を行使して有給取得を拒んできた場合は、安易に妥協せず、きちんと有給休暇を使わせてくれるよう要求しましょう。
会社がどうしても有休を取得させてくれない場合は、労働基準監督署に労働相談すると良いでしょう。
労働基準監督署は、労働条件の確保・改善や労働者の安全・健康の確保、的確な労災補償の実施などを通じて、労働者が安心、快適に働くことができる環境づくりを目指すための、全国にある厚生労働省の第一線機関です。
また、自分で交渉したり、労働基準監督署に相談するのが難しいという方は、弁護士に退職代行を依頼することを検討してみましょう。弁護士があなたの代わりに退職の意思を伝えるだけでなく、有休消化の希望を伝えたり、未払いの残業代を請求することもできます。
(4)退職しても離職票は発行しない

会社には、退職者からの請求に応じて離職票を交付する義務があります(雇用保険法76条3項)。
離職票は、正式には「雇用保険被保険者離職票」といい、失業給付金を申請するにあたって必要な書類のひとつになります。
離職票を直接会社に請求しても交付してもらえない場合は、ハローワークに相談して、ハローワークから会社に促してもらうと良いでしょう。
それでも離職票を交付してもらえない場合は、ハローワークで雇用保険の「確認の請求」(雇用保険法第8条)の手続きを行ない、ハローワークから離職票を交付してもらう方法もあります。
(5)退職するなら、懲戒解雇とする

懲戒解雇になると、就業規則の定めによっては退職金を受け取れなかったり、離職票に「重責解雇」と記載されたりする等のデメリットが生じることがあります。
懲戒解雇は従業員にとって不利益になりますから、会社が従業員を解雇処分や懲戒処分にできるのは、「客観的に合理的な理由」があり、「社会通念上相当である」と認められるときに限られます(労働契約法15条、16条)。
そして、労働者が任意に退職することは、懲戒解雇の事由に該当しません。
もし、退職の意思を告げたことだけをもって懲戒解雇処分とされてしまったというような場合は、法的に争えば懲戒解雇処分が無効となる可能性が高いでしょう。
そのようなケースに直面した場合には、不当解雇などの労働問題を扱っている弁護士に相談することをおすすめします。
懲戒解雇が不当となるケースについて詳しくはこちらの記事もご参照ください。
(6)退職するなら、損害賠償を請求する

会社側から「辞めるなら損害賠償する」と言われると、不安や恐怖で辞められなくなってしまったり、仮に辞めることができたとしてもしばらくの間、心中穏やかではいられません。
しかし、退職は法律で認められた労働者の権利なので、原則として、退職を理由として、労働者が損害賠償責任を負うことはありません。
ただし、退職の仕方によっては、損害を被ったとして使用者から損害賠償を請求される可能性がありますので注意が必要です。
例えば、引継ぎを全くしなかった場合や、有期雇用契約が始まってから1年以内の期間途中で「やむを得ない」事情なしに退職した場合、退職に伴ってほかの従業員を引き抜くなどして会社に損害を与えた場合等に、労働者が損害賠償責任を負う可能性が出てきます。
労働者側が損害賠償義務を負う可能性については、具体的状況によって異なります。
裁判で会社の損害賠償請求が認められるケースはほとんどありませんので、「裁判は怖い」「辞められるなら払ってしまおう」などと考え、会社に自主的に損害賠償金を支払うことはやめましょう。
会社と話すのがストレスだったり、しつこく損害賠償を請求するといわれたり、現実に損害賠償請求される心当たりがあるような場合には、お早めに弁護士に退職代行を依頼することを検討することをお勧めします。弁護士があなたの代わりに退職の意思を伝えるだけでなく、会社からの損害賠償請求にも対応してもらえることがあります。
退職時によくある引き止めのパターンとして6種類を紹介しました。退職引き止めの対処法を考えるにあたっては、次の記事なども参考になります。
未払い給与や残業代があるときは退職前に準備する
退職するので、今までは未払いで我慢していた残業代も請求したいです。退職後であっても未払い残業代を請求できますか?
未払いの給料や退職金、残業代は、退職後にも請求することができます。
ただし、証拠が集めやすい在職中のうちに、未払いの賃金・残業代・退職金を請求する根拠となる証拠を可能な限り集めておくようにしましょう。
違法な引き止めを行うような会社では、順法精神が弱く、過去にわたって、従業員がもらうべき残業代も支払っていないかもしれません。
将来の自分のためにも、退職する際には未払い残業代もしっかり請求したいところです。
しかし、未払い給与・退職金・残業代請求には証拠が必要です。有利となる証拠には次のようなものがありますので、退職前に集めておきましょう。
有利な証拠の具体例 |
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・給与明細 ・労働条件通知書 ・就業規則 ・退職金規程 ・タイムカードの写し ・Web打刻のスクリーンショット ・業務日報の写し ・出勤簿の写し など |
また、未払いの給料や退職金、残業代には、消滅時効があります。
毎月発生する給料、残業代は3年の時効(※)、退職金は5年の時効にかかります。消滅時効にかかってしまうと、もらえるはずのお金がもらえず損してしまいます。
ひと月ごとに、消滅時効にかかった分請求できる額が減ってしまいますので、「未払い残業代を支払ってほしい」と思ったらすぐに弁護士に相談するようにしましょう。
※給料・残業代の消滅時効は法律上5年ですが(労働基準法115条)、当分の間3年とするとされています。
【まとめ】労働者には退職する権利があるため、強引な引き止めは違法となる可能性が高い
今回の記事のまとめは、次のとおりです。
- 退職は、民法で認められた労働者の権利である。
- 期間の定めのない雇用契約(正社員など)は、退職申入れの翌日から2週間経過することにより退職できる。
- 期間の定めのある雇用契約では、基本的には期間経過まで退職はできないが、やむをえない事情があれば退職が可能である。
- 期間の定めのある雇用契約であっても、契約期間が1年を超える場合、契約初日から1年が経過すればいつでも退職することができる(※一部例外あり)。
- 会社による次の引き止めは基本的には違法である。
1.後任者の不足を理由とした引き止め
2.発生済みの給料・退職金を支払わないとする引き止め
3.有給消化を認めないとする引き止め
4.離職票を発行しないとする引き止め
5.懲戒解雇として扱うとの引き止め
6.退職を理由として損害賠償を請求するとの引き止め
ブラック会社などでは、違法と理解しながらも、法律を無視した引き止めが行われる可能性があります。
ご自身で退職を切り出せないという方は、退職代行サービスの利用を検討ください。
弁護士による退職代行について詳しくはこちらの記事もご参照ください。
アディーレ法律事務所の退職代行サービスは、退職意思を本人の代わりに伝えるだけでなく、会社との間で、未払いの給料・残業代の支払や退職時期の交渉、有休消化の交渉、退職前に会社から損害賠償請求された際の交渉なども可能です。
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