「独身だと嘘をついて付き合っていたのが不倫相手の彼女にバレて、貞操権の侵害で慰謝料を請求された…」
このような状況の方は、この記事をご覧ください。
既婚者であるにもかかわらず、独身だと嘘をついて性的関係を持った場合、貞操権の侵害となり慰謝料を請求されることがあります。
一方、不倫で性的関係があったとしても、貞操権の侵害とはならないケースもあります。
不倫相手から貞操権の侵害で慰謝料を請求された場合、弁護士に相談・依頼することをおすすめします。
この記事を読めば、貞操権の侵害による慰謝料を請求された場合の適切な対処法がわかります。
今回の記事では次のことについて、弁護士がご説明します。
- 貞操権の侵害の概要
- 貞操権の侵害に該当する場合・しない場合
- 貞操権の侵害で慰謝料を請求されたときにすべきこと

法政大学、及び学習院大学法科大学院卒。アディーレ法律事務所では、家事事件部にて、不貞の慰謝料請求、離婚、貞操権侵害その他の男女トラブルを一貫して担当。その後、慰謝料請求部門の統括者として広く男女問題に携わっており、日々ご依頼者様のお気持ちに寄り添えるよう心掛けている。第一東京弁護士会所属。
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貞操権の侵害とは?
貞操権とは、自分が性的関係を持つ相手を、自分の意思で決定する権利のことをいいます。
本来、自分が性的関係を持つ相手は、他人からの干渉や強要を受けることなく自由に選択できるものであるはずです。
にもかかわらず、性的関係を持つ相手を選択する意思決定過程が不当にゆがめられた場合、それは貞操権を侵害されたことになります。
例えば、相手が既婚者だと知っていれば性的関係を持つ意思決定をすることはなかったにもかかわらず、「自分は独身だ」と嘘をつかれ、相手は独身だと信じた結果、性的関係を持つという選択をした場合などです。
貞操権の侵害に該当する場合、しない場合
次に、貞操権侵害に該当する場合としない場合についてそれぞれ解説します。
(1)貞操権の侵害に該当する場合
貞操権の侵害に該当する場合の具体例をご紹介します。
(1-1)不倫相手と性的関係を持った
まず、貞操権は性的関係を結ぶ相手を自由に選ぶ権利ですので、貞操権侵害は性的関係を持ったことが前提となります。
仮に独身だと嘘をつき、交際していたとしても、実際に性的関係には至らなかった場合、貞操権の侵害には該当しません。
つまり、そのような事情の下で貞操権侵害を理由に慰謝料を請求されたとしても、支払いを拒否することが可能です。
(1-2)既婚者なのに独身だと嘘をついた
既婚者が不倫する場合、不倫相手に「独身だ」と嘘をつくケースは数多くあります。
既婚者が独身だと嘘をつき、性的関係を持った場合、相手の貞操権を侵害したことになり得ます。
ただし、不倫相手がその嘘を信じ込んでおり、かつ既婚者だと知っていれば性的関係を持たなかったといえることが必要です。
不倫相手が若く社会経験が少ないケースなど、判断能力が未熟であると考えられるケースなどでは、嘘を信じ込んだと裁判で認定される可能性が高まるといえるでしょう。
なお、「近々離婚予定である」という嘘をついて性的関係を持った場合は、原則として貞操権侵害にはなりません。既婚者であることは認識しているため、自分の意思で既婚者と性的関係を持ったといえるからです。
しかし、離婚の予定が嘘であり、その嘘が巧妙で悪質性が高く、不倫相手がそれを信じてしまったとしても落ち度がないといえる状況なら、貞操権侵害に該当することがあります。
(1-3)結婚を前提としていた
独身だと信じ込ませたうえ、さらに結婚を前提とした交際をしていた場合には、貞操権の侵害に該当する可能性が高まります。
結納や家族への紹介など、明確な婚約の手続きがなく、口約束で結婚をほのめかしていた場合であっても、貞操権の侵害になる可能性があります。
これに対して、いわゆる「ワンナイトラブ」など、相手が結婚を全く意識していない場合には、基本的には貞操権侵害による慰謝料請求は認められません。
結婚を前提とした交際ではなければ、貞操権侵害にはならないのですか?
結婚前提の交際でなければ、必ず貞操権侵害にならないというわけではありません。
貞操権侵害に該当するか否かは、線引きが非常に難しく、「どのくらい悪質だといえるか」が判断のポイントになります。
悪質性が高いと判断されれば、貞操権侵害になると判断されるでしょうし、悪質性が高いほど、認められる慰謝料も高額になりやすいでしょう。
(2)貞操権の侵害にならない場合
貞操権の侵害に該当しない場合の具体例をご紹介します。
(2-1)性的関係には至っていない
先述のとおり、貞操権は、性的関係を持つ相手を、自分の意思で決定する権利のことです。
したがって、仮に交際していたとしても、性的関係を持つに至っていない場合には、貞操権の侵害にはなりません。
例えば、キスをしただけの場合は、貞操権侵害になるのですか?
服を着たままキスをしただけで、それ以上の関係になっていないのであれば、貞操権侵害にならない可能性が非常に高いです。
(2-2)不倫相手にあなたが既婚者だと見抜く余地があった
不倫相手が10代であるなど、若くてまだ思慮分別が十分でなく、交際している相手が既婚者かどうか判断できなくても仕方がないと考えられる場合には、貞操権の侵害に該当しやすくなります。
一方、不倫相手の年齢や社会経験などに鑑みて、思慮分別があると考えられるのであれば、既婚者だと見抜けなかったという主張は認められにくくなります。
また、既婚者と見抜けなかったことに落ち度があったかどうかは、出会った場所やきっかけにも左右されます。
例えば、結婚相談所や婚活パーティーで出会った場合、独身だと信じたことに落ち度はなく、結婚前提の交際だったという判断に傾きやすい事情といえます。

貞操権の侵害で慰謝料を請求されたときの対処法
不倫相手から貞操権侵害で慰謝料を請求された場合の対処法について解説します。
(1)誠実に対応する
あなたが不倫相手に対し独身だと嘘をつき、それを信じた不倫相手と性的関係を持ったという事実自体に間違いがないのであれば、誠意をもって対応すべきでしょう。
発覚時に開き直ったり、泣き寝入りさせようとしたりするなど、不誠実な対応は慰謝料を増額方向に傾ける事情になり得ます。
慰謝料請求の連絡が来たのであれば、無視をせず何らかの対応をすることが必要です。
法外な請求を鵜呑みにして、何でも言うとおりにする必要はありませんが、請求に対し何の連絡もしなければ、不誠実な態度であるとして、不利な事情として扱われかねません。
ご自身で連絡することが不安であれば、弁護士に対応を依頼することをおすすめします。
(2)貞操権の侵害に該当するか確認する
誠実な対応は必要ですが、請求内容はしっかりと確認し、本当に貞操権の侵害に該当するのか確認しましょう。
貞操権の侵害には当たらないのは、交際していたが性的関係がない場合だけではありません。独身だと積極的に嘘をついたわけではなく、不倫相手が勝手に独身だと思い込んだ場合や、結婚を前提とするような真剣な交際だったとは言えない場合などには、貞操権の侵害に該当しない可能性があります。
また、独身だと偽っていたのは間違いないとしても、不倫相手が、あなたが既婚者だということに気付いていたかどうかが重要な争点になることがあります。
「独身だ」というのが嘘だと薄々気付いていたのであれば、貞操権侵害があるとはいえないでしょう。
ただし、「不倫相手があなたの嘘に気付いていた」と考えられる客観的な事情や言動が存在し、それを証明する証拠が必要になると考えられます。
(3)請求されている慰謝料額が妥当か確認し、減額交渉する
不倫相手があなたの嘘を信じたことに落ち度はなく、不倫相手は、あなたが既婚者と知っていれば性的関係を持つことはなかったと考えられる場合、貞操権侵害を理由とする慰謝料請求に応じる必要があるでしょう。
貞操権侵害の慰謝料の相場は、裁判になった場合およそ数十万~数百万円といわれています。
しかし、300万円以上になるのは相当な悪質性がある場合で、不倫相手を妊娠させ、中絶や出産に至った場合や、10年以上もだまして交際を続けた場合などです。
相場に鑑みて、妥当と考えられる金額以上の慰謝料を請求されたのであれば、減額交渉することになるでしょうが、相場と言っても幅があります。
妥当な慰謝料がいくらなのかは、さまざまな事情を考慮して判断することになります。
慰謝料の金額を決定する事情には、次のようなものが挙げられます。
- 交際していた期間
交際期間が長いほど、慰謝料は高額になりやすいといえます。独身だと嘘をついて交際を続けた期間が長いほど、貞操権を侵害していた度合いも大きいと考えられるからです。
- 性的関係を持った回数
性的関係を持った回数が多いほど、慰謝料は高額になりやすい傾向があります。
- 妊娠の有無
独身だと嘘をついて性的関係を持った結果、妊娠し、中絶や出産をするに至った場合には、慰謝料が高額になる傾向があります。交際していた相手に独身だとだまされたうえ、妊娠すれば、精神的苦痛のみならず、肉体的苦痛も加わることになるからです。
- 性的関係を持つ際に積極的だったのはどちらか
貞操権を侵害した側が強引に誘うなど、性的関係を持つ際に主導的な立場だったといえる場合には慰謝料は高額方向に傾きます。
一方、被害者側も性行為に積極的だった事情があれば、慰謝料の減額要素として考慮されることがあります。
- 既婚者と発覚した時の態度
既婚者と発覚した際に、開き直った言動をしたり、急に連絡がつかなくなったりするなど、不誠実な態度や行動があった場合には、慰謝料を増額する事情として考慮されることになるでしょう。
(5)弁護士に慰謝料請求への対応を依頼する

貞操権侵害で慰謝料を請求された場合、弁護士に対応を依頼することをおすすめします。
貞操権侵害がないと考えられる場合には、法的に支払い義務がないことを伝え、慰謝料の支払い義務自体はあると考えられる場合には、慰謝料の減額交渉をすることになります。
しかし、相手が慰謝料請求をしてきている以上、あなたに対して強い怒りを感じていると考えられます。あなた本人が、法的に支払い義務がないことを伝えたり、減額交渉をしたとしても、責任逃れのように受け取られて、なかなか聞き入れてもらえないかもしれません。
また、支払い義務の有無や妥当な慰謝料の金額を判断するには、法律や過去の裁判例などの知識が必要です。
そのため、法律の専門家であり、交渉のプロである弁護士に対応を依頼し、あなたの代わりに交渉してもらうことをおすすめします。
貞操権侵害で慰謝料を請求されたことが妻に知られたら、不倫もバレることになります。
必ず妻に知られずに済む方法はありませんか?
絶対に知られずに済む方法はありませんが、弁護士に対応を依頼した場合、交渉窓口は弁護士になります。自宅に届いた書面などを家族に見られてしまうリスクは減らすことができるでしょう。
【まとめ】貞操権侵害で慰謝料請求されたら弁護士にご相談ください!
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 貞操権とは、自分が性的関係を持つ相手を、自分の意思で決定する権利のこと
- 独身であると偽り、それを信じた相手と性的関係を持ったのであれば、貞操権侵害に該当する可能性がある
- 交際していたとしても、性的関係を持つに至っていない場合は、貞操権侵害にはならない
- 独身であるという嘘が発覚したら、誠実に対応すべき
貞操権侵害を理由とする慰謝料の金額を決定する事情の例
- 交際していた期間
- 性的関係を持った回数
- 妊娠の有無
- 性的関係を持つ際に積極的だったのはどちらか
- 既婚者と発覚した時の態度
支払い義務の有無や妥当な慰謝料の金額を判断するには、法律や過去の裁判例などの知識が必要なため、貞操権侵害で慰謝料を請求されたら、弁護士に対応を依頼するべき。
貞操権侵害で慰謝料を請求された場合、請求してきた側は、独身だとだまされたと感じ、強い怒りを持っている場合が多いでしょう。
そのため、本人が対応するよりも、第三者である弁護士を代理人にして話し合った方が、相手の冷静な対応を引き出しやすくなります。
また、慰謝料の金額などの条件について合意できた場合、その内容を記載した書面の作成まで任せられるため、なるべくトラブルが再燃しないような対策を取ることもできます。
さらに、相手と口外禁止の約束をして、それを書面に記載できる場合があります。
貞操権侵害で慰謝料を請求された場合、まずは弁護士に相談することをご検討ください。
