土日祝も休まず朝9時から夜10時まで無料相談の予約を受付けております。

運送会社で勤務中、物損事故を起こした!修理代は誰が負担するの?

作成日:更新日:
リーガライフラボ

運送会社などで日常業務として車両を運転している場合、事故を完全に避けることはなかなか困難でしょう。
事故に備えて会社は各種保険に加入しているかと思いますが、数万円程度の損害であれば、免責金額の範囲内ということで保険金が支払われないことも多いかと思います。
そこで、今回は、運送会社で勤務している従業員が勤務中、不注意(過失)によって物損事故を起こして会社車両が破損したが、保険が支払われないというケースで、その修理代は誰が負担するのか、考えてみましょう。

この記事の監修弁護士
弁護士 髙野 文幸

中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。

物損事故による損害は誰が、どの程度負担しないといけないの?

そもそも、従業員が勤務中に物損事故を起こして会社や第三者に損害が生じたとき、一体誰がその損害を賠償しなければならないのか簡単に説明します。
そんなものは、事故を起こした従業員が全責任を負うに決まっていると思っていませんか?
そんなことはありません。
決して従業員が全責任を負うわけではないのです。
第三者(従業員・勤務先会社以外)に損害が生じた場合と、会社に損害が生じた場合について、それぞれ分けて説明します。

(1)第三者に生じた損害について

第三者に損害が生じた場合とは、例えば、顧客の貨物を運んでいる途中に運転を誤って顧客の貨物を破損した、配送先で倉庫に車両をぶつけて倉庫を破損した、などの場合です。
被害を受けた第三者は、運転していた従業員に対してしか、生じた損害の賠償を請求できないのか?会社にもできるとして、会社がこれに応じたとき、運転していた従業員に対し、支払った賠償金を全額求償できるのか?が問題となります。

(1-1)誰が責任を負うの?

この場合、一次的に責任を負うのは、従業員です(民法709条)。
従業員の故意・過失によって第三者に損害を与えた時、当然、従業員は第三者に対してその損害を賠償しなければなりません。
ですが、従業員が会社の勤務中に事故を起こして第三者に損害を与えたという場合、従業員がその全責任を負うわけではありません。
この時、従業員だけでなく、会社も従業員と一緒に責任を負うことになるのです(民法715条)。
ですから、従業員の不注意によって、何らかの損害を被った第三者は、従業員だけではなく、会社に対してその損害を賠償しろ、と請求することができます。

従業員の不注意によって第三者に損害が発生した時、なぜ、従業員だけでなく会社も責任を負わなくてはいけないのでしょうか。
それは、簡単に言えば、会社は従業員を使って利益を得ているのだから、そこから生じるリスクについても負担するのが公平だということです(これを「報償責任の原理」と言います)。
また、第三者に損害を及ぼすような危険な行為を従業員にさせている以上、危険が現実化した時には、その責任を取らなければならないという意味合いもあります(これを「危険責任の原理」と言います)。
要は、従業員に危険な行為をさせて利益を得ている以上、そこから生じるリスクを全て従業員に押し付けることは認めませんよ、というのが法の趣旨なのです。
ですから、従業員が勤務中に事故を起こしたりして第三者に損害を与えた場合、従業員だけではなく、会社もその賠償責任を負うということになります。

(1-2)会社は賠償金全額を求償できるのか?

そして会社が賠償に応じたとき、運転していた従業員に対し、支払った賠償金を求償することができるとされますが(民法715条3項)、当然に支払った賠償金全額を求償できるとはされておりません。
後でご説明するとおり、最高裁第一小法廷判決昭和51年7月8日(茨城石炭商事事件)によりますと、会社から従業員に対する損賠賠償又は求償の請求は、信義則上相当と認められる限度に制限されます。
最高裁は、求償の制限の根拠について、信義誠実の原則(民法1条2項)を挙げておりますが、これは上記の報償責任の法理や危険責任の法理と矛盾するものではなく、むしろ整合するものと考えられます。

(2)会社に生じた損害について

次に、従業員が会社に損害を与えた場合について考えてみましょう。
勤務中に会社車両を運転中、物損事故を起こして会社車両を破損したという冒頭のケースは、まさにこの場合です。

この場合、従業員は、故意・過失によって会社の財産を害していますので、従業員は、会社に対してその損害を賠償する責任を負うことになります(民法709条)。
ですが、先ほど説明したとおり、会社は従業員を使用することにより利益を得ていますので、従業員の不注意によって生じた損害について、全額を当然に従業員に負担させるのは法の趣旨から許されません。
ですから、第三者に対して損害を与えた場合と同様、従業員の会社に対する責任が一部に限定され、従業員は損害全額を会社に賠償する必要はないとされることが圧倒的に多いです。

(3)従業員と会社の負担割合は?

第三者に対してであれ、会社に対してであれ、その賠償責任について従業員と会社で分け合うとして、その負担割合は具体的に何割ずつなのでしょうか。
従業員と会社の責任は半々でしょうか(例えば、車両の修理代金が10万円かかったとして、従業員と会社で5万円ずつ負担することになるのでしょうか)?
この点については、法律で一律に何割ずつと決まっているわけではなく、その判断はケースバイケースとしか言いようがありません。
従業員が勤務中に交通事故を起こした実際の事案で、裁判所がどう判断したのか、事案を3つご紹介しましょう。

【ケース1(第三者に損害が発生したケース)】

参考:最高裁第一小法廷判決昭和51年7月8日|裁判所 – Courts in Japan

この事案は、石炭・石油などの輸送・販売会社の従業員が、臨時業務でタンクローリーを運転中、先行車両に衝突してしまったという事案です。
この事案では、まずは会社が損害を被害者に賠償し、その後、会社から従業員に対して求償(肩代わりした分の支払いを求めることです。)しました。
裁判所は、会社の従業員に対する求償について、

  • 会社の事業の性格・規模・施設の状況
  • 従業員の業務内容・労働条件・勤務態度
  • 加害行為の態様
  • 加害行為の予防・損失の分散についての会社の配慮の程度
  • その他諸般の事情

に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度で求償できる、と判断しました。
なお、この事案における従業員の不注意は、前を走行する先行車両との車間距離を十分に保持せず、前方を注視していなかったために、急停止した先行車両に追突した、という内容でした。
結局、裁判所は、この事案において、会社が第三者に賠償した損害の25%分を従業員に求償できる、と判断しました。

【ケース2(第三者に損害が発生したケース)】

参考:福岡高等裁判所判決昭和47年8月17日|裁判所 – Courts in Japan

この事案は、運送会社ではありませんでしたが、従業員がその使用者の命令に従って会社車両を運転中、転倒して路上に投げ出された先行車両運転手をひいてしまったという事案です。
この事案で、裁判所は、従業員が的確なハンドル及びブレーキ操作を欠いたことにより人身事故を起こしたことを認めつつ、その賠償責任については、

  • 従業員が運転を固辞したのに使用者が強く指示したこと、
  • 使用者が車両保険に加入していなかったこと、
  • 従業員の過失がそれほど大きくないこと、

などから損害の約20%分であると判断しました。

【ケース3(会社に損害が発生したケース)】

参考:大阪高等裁判所判決平成13年4月11日労働判例825号79頁|裁判所 – Courts in Japan

この事案は、運送会社に勤務する従業員が、冬季、会社車両を運転して勤務に就いていたところ、凍結した路面でスリップ事故を起こして車両がトンネル側壁に衝突し、車両が破損したという事案でした。
裁判所は、労働者の過失が重大ではなかったことや、会社に安全指導等に不備があったこと、労働条件に問題があったことなどを考慮して、損害額全体の5%分の賠償を従業員に命じました。

(4)従業員が全額賠償義務を負うわけではない

以上のとおり、従業員が勤務中、過失による事故を起こし、第三者や会社に損害を与えた場合、従業員がその全額の損害賠償を負うわけではありません。
従業員と会社の負担割合については、具体的な事案によって異なりますが、上記の各事案や、その後の同種の裁判例などを見ても、発生した損害が、

  • 従業員の軽過失(通常想定されるような不注意)によって引き起こされたものであれば、基本的には従業員の責任は5~30%程度

となっています。

思っていたよりも、従業員が負担割合は小さいと思いませんか?
実際には、貨物の商品事故などについて、会社にばれたら運行停止処分になったり、特別講習を受けなければならないから、それであれば、数千円程度の弁償であれば、会社に秘密にして自腹で弁償するという方もいらっしゃるでしょう。
その当否はさておき、法の理屈からすれば、決して従業員が全責任を負わなければならない訳ではないことを理解しておいてください。
もしもあなたが今、勤務中に起こした物損事故により破損した車両の修理代金を全額請求されているとしたら、それは不当ですから、今一度会社と話合いをするべきでしょう。

就業規則に特別な規定があったらどうなるの?

それでは、働いている会社の就業規則に、従業員が会社に損害を与えた場合の規定がある時、就業規則に従わなくてはいけないのでしょうか。

就業規則に「従業員が会社に損害を与えた時は、違約金として●万円を支払う」という規定がある場合

次に、修理代金は会社が負担するとして、就業規則に「従業員が会社に損害を与えた時は、違約金として●万円支払う」という規定により、会社から罰金を請求されたとしたらどうでしょう。
結論から言えば、このような就業規則は、そもそも労働基準法16条に違反して無効です。

労働基準法

第16条(賠償予定の禁止)

使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

引用:労働基準法16条

参考:労働基準法|e-Gov法令検索

この規定は、予め損害賠償額などを予定することによって、従業員の退職の自由を奪うことを禁止するために設けられています。
例えば従業員が会社に損害を与えた時、従業員は100万円の違約金を支払うなどと規定し、実際にそのような事態が生じた時に従業員に対して100万円の支払いを要求できるとなれば、従業員は事実上支払いを終えるまでその会社を退職することが難しくなるでしょう。
このような事態にならないように、労働基準法では事前に損害賠償額などを決めておくことを禁止しているのです。
同様に、就業規則に「従業員が会社に損害を与えた時は、全額、従業員が賠償する」という規定がある場合であっても、そのような規定は従業員を不当に拘束するものですので、労働基準法16条に反して無効とされるでしょう。

なお、この条文は、予め「賠償金額」を定めておくことを禁止するものですから、過失により会社に損害を与えた従業員に対する会社の賠償請求自体を禁止するものではありません。
ですから、従業員の不注意により会社に損害が生じた場合、その具体的な負担割合については、やはり従業員と会社との話合いが必要になります。

参考:(6)賠償予定の禁止(労基法第16条)|厚生労働省

いずれにしても、もしも勤務中に物損事故を起こしたため、会社から就業規則に規定された罰金を請求されている、という方がいたら、そのような規定は労働基準法違反ですから、労働基準監督署に相談することをお勧めします。

参考:総合労働相談コーナー|厚生労働省

会社への賠償金を、会社が給料から天引きすることはできる?

それでは、従業員が会社に対して、物損事故の修理代などの損害を一部負担することになったとして、それを会社が給料から天引きすることは可能でしょうか。
結論から言えば、給料の天引きは、従業員の同意がない限り、労働基準法24条に反して無効です。

労働基準法

第24条
1項本文(賃金の支払)

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。

引用:労働基準法24条

この条文は、労働者(給料をもらって生活している人)の給料は、契約で決まっている金額を、決まっている支払日に、『全額』支払わなければいけない、という意味です。
労働者は、これだけの給料をこの日にもらえると見込んで生活しています。
いきなりその予定が変わってしまうと、生活ができなくなってしまいます。
そこで、労働基準法24条1項本文は、労働者の生活の安定を守るため、給料は全額支払わなければならないと定めているのです。
ですから、会社に対する賠償金を、会社が従業員の同意なく給料から天引きするというのは、この給料全額払いの原則に違反して許されません。
もしも、同意なく給料から修理代金などを勝手に天引きされているということがあれば、会社の行為は労働基準法に違反していますから、労働基準監督署に相談することをお勧めします。

参考:総合労働相談コーナー|厚生労働省

無事故手当がある場合はどうなるの?

なお、運送会社によっては、賞与として「無事故手当」を設け、事故を起こさなかった場合には支給する、という運用をしている会社もあります。
このような運用は可能でしょうか。

無事故手当は、一般的には、基本給とは別に一定期間事故を起こさなかったという成果に対して支給される手当であり、法律で規定されているものではありません。
法律に規定のない手当は、原則として、各会社が独自に要件を定めて任意に支給することができます。
ですから、例えば就業規則で

  • 対象となる無事故の期間
  • 無事故の具体的内容
  • 支給金額
  • 支給条件

を予め規定しておき、対象となる事故を起こした時は、就業規則に規定された期間、規定された金額を支払わないという運用は可能です。
ただし、無事故手当も「賃金」ですので、無事故手当と称して、損害を全額賠償させるような規定(「損害全額に達するまでの期間、無事故手当の支給を停止する」など)であれば、実質的に、損害額を賃金から全額天引きしていることになりますので、先ほどご説明した、賃金全額払いの原則(労働基準法24条1項本文)に反して許されません。
他の運送会社に転職する際などは、無事故手当に関するルールが明文化されているか、その内容が不当でないか、しっかりと確認した方が良いでしょう。

会社との話合いで気を付けることは?

これまで説明したとおり、運送会社の従業員が勤務中に物損事故を起こした場合、一律に従業員が全責任を負うわけではありません。
今、まさに、会社から修理代金を請求されている、というような方はぜひ、負担割合について会社と話し合うことをお勧めします。
ここでは、会社との話合いにあたり、注意すべき点を簡単に説明します。

(1)証拠を確認しよう

まずは、修理にあたり、本当に会社から請求されている金額がかかったのか確認しましょう。
修理代の損害賠償というのは、実際に生じた損害分でなければなりませんから、会社が修理代を上乗せしていないか等の確認は一応必要です。
修理代金の領収証等を見せてもらいましょう。

(2)事故を起こした原因について、会社に責任がないか十分検討しよう

従業員と会社の負担割合はケースバイケースで異なります。
ですから、例えば、

  • 超過勤務が続いていた
  • 配送スケジュールに無理があった
  • 十分な研修が実施されないまま業務に従事させられていた
  • 車両にもともと不備があった

など、事故を起こしたことに関して会社にも落ち度があれば、当然、会社の負担割合は大きくなります。
会社の責任については、しっかりと事前に検討しましょう。
会社の責任、と言われてもどう考えたら良いか分からない、という場合には、それまでの会社に対する不満を列挙してみたら良いでしょう。
会社に対する不満を列挙しているうちに、会社の責任が自ずから見えてくる可能性があります。

(3)会社が提示した金額に納得できなければ、サインはしない

会社と損害賠償の負担割合について話し合ったとして、会社が提示する負担割合に納得できなければ、合意する必要はありません。
先ほど説明したとおり、会社は従業員の合意なく、勝手に修理代金を給料から天引きをすることはできません(極端な言い方になりますが、会社が従業員から強制的に修理代金を回収するには、裁判などをするよりほかありません)。
まずは、納得するまでしっかりと話し合い、会社が提案した金額に納得できなければ、合意書等の書面にサインをすべきではないでしょう。
また、会社によって、かなり強硬的にサインを求めることが想定されるようであれば、事前に録音などの措置を講じることも検討しましょう。

【まとめ】

以上のとおり、運送会社で勤務中、物損事故を起こした場合、従業員が修理代金を全額負担する必要はありません。

今回の記事のまとめは次のとおりです。

  • 従業員が、勤務中に過失により第三者や会社に損害を与えたとしても、その全額について賠償責任を負うわけではない。
  • 従業員の責任は個別の事情により異なるが、軽過失であればせいぜい5~30%程度にとどまる。
  • 就業規則等で、従業員の全額賠償責任が規定されていたとしても、それに従う必要はない。
  • 就業規則で、会社に対する罰金が規定されていたとしても、支払う必要はない。
  • 会社に対する賠償金について、勝手に給料から天引きされるのは違法である。
  • 損害賠償の負担割合については、まずは会社としっかり話し合う必要がある。

勤務中の物損事故について、原因を問わず、一律全額従業員に負担させたり、強制的に給料から天引きしたりすることは違法・不当な行為です。
ですが、実際に、このような運用をしている会社は少なくないようです。
勤めている会社が初めて就職した会社で他の会社の事情をよく知らないという場合、このような運用が当然だと思いこんで、会社に言われるがままに支払っている方もいるかと思います。
もしかしたら、数万円程度の損害であれば、自分のミスが原因なので仕方ないと思っている方も多いのではありませんか。
事故を起こす可能性は誰にでもあります。
業界ではこれがルールだから、というのが相手方の勝手な理屈です。
問答無用で修理代金の全額負担を言い渡したり、給料から修理代金全額を勝手に天引きしたりする会社であれば、残念ながら退職を検討しても良いでしょう。
ご自身で退職を申し出ることが難しい、ということであれば、退職手続を弁護士など第三者が代わりに行ってくれる「退職代行サービス」の利用を検討することも一つの方法です(アディーレ法律事務所も退職代行サービスを提供しています。)。
退職代行については、下記の記事をご参照ください。

退職代行とは?サービスの内容や未払賃金・残業代も請求できるか解説
退職代行はトラブルが起きやすい!?弁護士に相談するメリットを解説

残業代請求・退職代行に関するご相談は何度でも無料

朝9時〜夜10時
土日祝OK
まずは電話で無料相談 0120-610-241
メールでお問い合わせ
ご来所不要

お電話やオンラインでの法律相談を実施しています