『通勤中に交通事故にあったけれど、労災から慰謝料は受け取れるのかな』
交通事故の被害にあった場合、被害者は加害者に対し、慰謝料などの損害賠償を請求することができます。
さらに、労働者が通勤中や業務中に交通事故にあった場合、労災保険から治療費などが給付されます。
ただし、「慰謝料」については、労災保険からは給付されません。
ですから、「慰謝料」が発生する事故については、労災保険ではなく加害者に慰謝料を請求する必要があります。

この記事を読んでわかること
- 労災保険の給付
- 交通事故で請求できる慰謝料
- 慰謝料の計算方法
- 弁護士に依頼するメリット
東京大学法学部卒。アディーレ法律事務所では北千住支店の支店長として、交通事故、債務整理など、累計数千件の法律相談を対応した後、2024年より交通部門の統括者。法律を文字通りに使いこなすだけでなく、お客様ひとりひとりにベストな方法を提示することがモットー。第一東京弁護士会所属。
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労災とは
労災とは、労働災害の略で、労働者が通勤する途中や業務中にけがをしたり病気になったりすることです。
労働者が労災によってけがなどをした場合、労災保険から治療費や、働けない間の休業給付などが給付されます。

労災保険の対象となる災害は、次の2つです。

労災と交通事故について詳しくはこちらをご覧ください。
労災保険と慰謝料について
労災保険による給付は、次のとおりです。
- 療養(補償)等給付
- 休業(補償)等給付
- 障害(補償)等給付
- 遺族(補償)等給付
- 葬祭料等(葬祭給付)
- 傷病(補償)等年金
- 介護(補償)等給付
- 二次健康診断等給付
給付の具体的内容について詳しくはこちらをご覧ください。
労災保険による給付の内容を見ればお分かりかと思いますが、ここには『慰謝料』が含まれていません。
ですから、通勤中や業務中に交通事故にあった場合、労災保険から慰謝料を受け取ることはできません。
交通事故の慰謝料は、交通事故の加害者に請求できる

交通事故の被害にあった場合、被害者は加害者に対し、状況に応じて次の慰謝料を請求できます。
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 死亡慰謝料
それぞれの意味は、次のとおりです。

慰謝料は、通常、次のとおりそれぞれ該当するものを請求できます。
- けがをして入通院して完治した場合は「入通院慰謝料(傷害慰謝料)」のみ
- けがをして入通院したけれども後遺障害が残ってしまった場合には「入通院慰謝料(傷害慰謝料)」と「後遺障害慰謝料」
- 入院した上で死亡した場合には「入通院慰謝料(傷害慰謝料)」と「死亡慰謝料」
- 事故直後に死亡した場合には「死亡慰謝料」のみ
慰謝料について詳しくはこちらをご覧ください。
これらの慰謝料は、先ほどご説明したとおり労災保険から給付を受けることはできませんので、別途、加害者(又はその保険会社)に請求しなければいけません。
勤務先に対して慰謝料の請求はできる?

それでは、労働者が通勤中や業務中に交通事故の被害にあった、という事案で、使用者(勤務先)に対して慰謝料を請求することはできないのでしょうか。

結論から言えば、労働者の交通事故が使用者の『安全配慮義務』違反によるといえる場合には、慰謝料などの損害賠償を請求できる余地があります。

第5条(労働者の安全への配慮)
引用:労働契約法|e-Gov法令検索
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
労働者の交通事故と使用者の安全配慮義務が問題となるのは、主に『過重労働』のケースです。
『過重労働』とは、残業や休日出勤などによる長時間の勤務が慢性的に続いている状態です。
この点、被害者がかねてから不規則で過重な業務に従事し、夜通しの業務を終えて原付バイクで帰宅中、電柱に激突して死亡したという事案で、業務による疲労の過度の蓄積と顕著な睡眠不足が原因で居眠り状態になった交通事故であると裁判所が認めて、裁判上の和解において会社に対する損害賠償を認めた例もあります(横浜地裁川崎支部平成30年2月8日和解成立)。
もっとも、交通事故の前に長時間労働が一定期間継続していた、というだけで使用者に対する損害賠償責任が認められるわけではないことに注意が必要です。
労働者の使用者に対する損害賠償請求が認められるためには、交通事故前の業務がどの程度不規則であったかという点や、事故前の労働者の休息の程度、事故前の労働者の精神状態や健康状態などから、発生した事故が使用者の安全配慮義務に違反した結果であるといえる必要があります。
労災保険と加害者の自賠責保険はどっちが有利?

通勤中や業務中に交通事故の被害にあったとき、被害者は労災保険の給付を受けることも加害者の自賠責保険に保険金の請求をすることもできます(※ただし、重複する補償については両方から同じ内容の補償を受けることはできません)。
それでは、労災と加害者の自賠責保険の両方から補償を受けられる場合、どちらから補償を受けると有利なのでしょうか。
これまでご説明しているとおり、慰謝料は労災では認められませんから、慰謝料を請求する場合には、自賠責保険に請求する必要があります。
労災と自賠責保険に関して補償内容が異なる項目をいくつかご紹介しましょう。
休業補償について | ※労災……休業給付+休業特別支給金をあわせても給付基礎日額の80% ※自賠責……日額基礎収入の上限は1万9000円(証拠により証明できる場合) |
入院雑費について | ※自賠責……日額1100円 ※労災……入院雑費は補償されない |
補償金が120万円を超える場合 | ※自賠責……けがをした場合の保険金の上限は120万円まで ※労災……上限なし |
被害者の過失が7割以上の場合 | ※自賠責……被害者の過失が7割以上になると、受け取れる保険金が減額される ※労災……被害者の過失による減額なし |
後遺障害が残った場合 | ※自賠責……後遺障害等級別に慰謝料などを受け取れる ※労災……障害等級1~7級の場合には障害補償年金が、8~14級の場合には障害補償一時金が支給される |
被害者が死亡した場合 | ※自賠責……被害者死亡の保険金の上限は3000万円 ※労災……一定条件を満たせば遺族への年金が支給される |
労災と自賠責保険では共通する部分も多いですが、上記のような違いもあります。
労災保険から給付を受けた方が良いのか、自賠責保険から補償を受けた方が良いのか、個別の事案により判断されることをお勧めします。
弁護士に依頼する2つのメリット
交通事故の加害者に対して慰謝料を含む損害賠償請求をする場合に弁護士に依頼するメリットについてご説明します。
(1)メリット1|最終的に受け取れる賠償金が増額する可能性がある
交通事故の被害にあった時、加害者が自賠責保険に加えて任意保険に加入している場合、通常は、任意保険会社と損害賠償について交渉することが多いです。
治療費や入院雑費など、実費の賠償項目については保険会社との交渉もスムーズにできることもあります。
ですが、弁護士に依頼した場合には、しない場合と比較して最終的に受け取れる金額が増額する可能性があります。
増額する可能性のある項目は、例えば「慰謝料」です。
交通事故の慰謝料の基準は、自賠責の基準、任意保険会社の基準、弁護士の基準がそれぞれ異なっており、通常は自賠責の基準が一番低額で、弁護士の基準が一番高額になります(※ただし、自賠責保険金額は、交通事故の70%未満の過失については減額対象にしませんので、ご自身の過失割合が大きい場合などは、自賠責の基準がもっとも高額となることもあります)。
任意保険会社の基準は、各保険会社によって異なりますし、公表されていませんので、一概にこれとは言えませんが、一般的には自賠責の基準よりは高く、弁護士の基準よりは低くなります。

交通事故の示談を弁護士に依頼した場合、弁護士は、最も高額な賠償金を得るために、通常は(被害者の過失が大きいなどの特別な事情のない限り)弁護士の基準に近づけるように交渉をします。
他方、ご自身で弁護士の基準を目指して示談をしようと思っても、なかなか弁護士の基準に近づけないことが多いです。
ですから、弁護士に依頼した場合には、最終的に受け取れる賠償額が増額する可能性があります。
弁護士に依頼するメリットについて詳しくはこちらをご覧ください。
(2)メリット2|不当な過失割合が割り当てられるリスクを回避できる可能性が高くなる

交通事故が起きた時、事故原因について被害者にも過失(不注意や落ち度)がないか検討しなければなりません。
事故の原因や被害が拡大したことについて、被害者にも過失がある場合には、その過失割合に応じて損害賠償額が減額されます(例えば、損害賠償額が1000万円だったとしても、被害者の過失が2割という場合には800万円に減額されます)。
被害者に過失が一切ないというケースはそれほど多くありません(被害者に過失がないとされるのは、赤信号などで停車中に後方から追突される場合などです)。
交通事故の過失割合自体は、ある程度類型化されていますので、交通事故が起こった状況について被害者・加害者双方の認識に争いがなければ、その状況に応じた過失が認定され、過失割合についてはそれほど問題にならないことが多いでしょう。
また、当事者の認識に争いがあったとしても、ドライブレコーダーや街の防犯カメラなどで事故状況が特定できる場合にも、過失割合はそれほど問題にならないことが多いでしょう。
問題は、ドライブレコーダーなどの証拠もなく、当事者同士で事故状況の認識が食い違っている場合です。
この場合、交通事故の原因に関する当事者の過失割合について当事者同士でもめることが多いです。
弁護士に依頼した場合、警察の作成した調書などで事故状況を確認した上で過失割合を検討しますから、加害者側から一方的に不当な過失割合を割り当てられるリスクを回避できる可能性が高まります。
弁護士に依頼する費用には「弁護士費用特約」が使えることも

弁護士に依頼するとデメリットとしては、弁護士に支払う費用がかかるという点があります。
ですが、弁護士費用が心配という方は、まず、契約している保険の特約を確認してみてください。
保険によっては、加害者の保険会社との話合いなどを弁護士に依頼した場合にはその費用を負担するという『弁護士費用特約』が付いていることがあります。
弁護士費用特約による負担額には限度額はありますが、原則として弁護士費用は保険会社が負担しますので、ぜひ、特約を利用して弁護士に依頼することをお勧めします(※弁護士費用特約の利用には、被害者本人に重過失がないなどその他一定の条件を満たす必要がある場合が多いです。)。
また、弁護士費用特約が利用できないとしても、弁護士が交渉することにより、これまでお話したように、示談金額が増額する可能性があります。
【まとめ】労災では慰謝料を受け取れないため、慰謝料は加害者やその保険会社に対して請求しなければならない
今回の記事のまとめは、次のとおりです。
- 通勤中や業務中に交通事故にあった場合、労災から給付を受けられるが、慰謝料は給付の対象ではない
- 交通事故の原因が勤務先の過重労働の場合には、勤務先に慰謝料を含む損害賠償を請求できる余地がある
- 労災と自賠責保険はその補償内容は同じではないため、自己に有利な方を選んで請求することができる。
- 交通事故に関して弁護士に依頼すると、次のメリットがある
- 最終的に受け取れる賠償金が増額する可能性がある
- 不当な過失割合が割り当てられるリスクを回避できる可能性が高くなる
交通事故の被害による賠償金請求をアディーレ法律事務所にご相談・ご依頼いただいた場合、原則として手出しする弁護士費用はありません。
すなわち、弁護士費用特約が利用できない方の場合、相談料0円、着手金0円、報酬は、獲得できた賠償金からいただくという成功報酬制です(途中解約の場合など一部例外はあります)。
また、弁護士費用特約を利用する方の場合、基本的に保険会社から弁護士費用が支払われますので、やはりご相談者様・ご依頼者様に手出しいただく弁護士費用は原則ありません。
※なお、法律相談は1名につき10万円程度、その他の弁護士費用は300万円を上限にするケースが多いです。
実際のケースでは、弁護士費用は、この上限内に収まることが多いため、ご相談者様、ご依頼者様は実質無料で弁護士に相談・依頼できることが多いです。弁護士費用が、この上限額を超えた場合の取り扱いについては、各法律事務所へご確認ください。
(以上につき、2023年3月時点)
交通事故の被害にあって賠償金請求のことでお悩みの場合は、アディーレ法律事務所にご相談ください。