「医師として病院で働いており、業務の中で調査や研究などの研鑽を行うことも多くある。研鑽のために残業になってしまうことも多いけど、病院からは『研鑽時間は労働時間には含まれないから残業代は出ない』と言われている。
実際に、研鑽時間について残業代は支払われていない。研鑽時間といえども、診療業務と関係があってやっているわけだし、別に自分の好きで遊びでやっているわけでもない。
それなのに残業代がもらえないのは、なんだかおかしいんじゃないかな。医師の研鑽時間について、本当に残業代がもらえないのか知りたい!」
医師の仕事を行うにあたっては、常に高度な知識をアップデートしつづけていなければならないのが実情です。そのため、研鑽のために多くの時間を費やしている医師の方は多くいます。
一方で、研鑽時間は直接的には診療業務とは異なるため、労働時間とは扱われずに研鑽時間の分の残業代をもらえていない医師の方も多いです。
実は、医師の研鑽時間であっても、労働時間にあたることがあります。
医師の研鑽時間が労働時間にあたる場合には、その研鑽時間についても残業代をもらうことができます。
このことを知っていれば、残業代をもらえる医師の研鑽時間については、しっかりと残業代を請求することが可能となります。
特に、2024年4月から医師の働き方改革が始まり、診療に従事する勤務医の時間外・休日労働の上限規制が始まります。この機会に、ご自身の働き方を見直してみるのはいかがでしょうか。
この記事では、次のことについて弁護士が解説します。
- 医師の研鑽時間とは何か
- 医師の研鑽時間は「労働時間」にあたるか
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
医師の研鑽時間とは
医師は、通常の診療業務だけでなく、さまざまな研鑽を行うことが多くあります。
例えば、次のような研鑽があります。
- 治療方法についての文献調査
- 新薬や新しい治療方法についての勉強
- 手術や処置などについての予習・復習
- 手技の練習
このような研鑽は、病院の命令に基づいて業務として行うこともあれば、医師が自発的に行うこともあります。
医師の研鑽時間は「労働時間」にあたるか
医師が行うこのような研鑽の時間が「労働時間」にあたるかについてご説明します。
(1)労働時間にあたれば残業代を請求できる!「労働時間」の考え方
医師が行う研鑽の時間が「労働時間」にあたるのであれば、その時間について賃金を請求する権利があります。
また、研鑽時間が所定労働時間(1日8時間・週40時間の労働時間)を超えた時間に行われるのであれば、所定の割増率で割り増した割増賃金(残業代)を請求できることになります。
割増賃金の割増率について、詳しくはこちらをご覧ください。
ある研鑽時間が労働時間にあたるかどうかは、残業代を請求できるかどうかにかかわってくるので、とても重要なポイントです!
医師の研鑽時間が「労働時間」にあたるかどうかは、「客観的に見て労働者(医師)の行為が使用者(病院)の指揮命令下に置かれたものといえるか」という観点から判断します。
そして、「労働者の行為が使用者の指揮命令下にあるといえるか」は、それぞれの行為の内容や状況等から個別具体的に判断することとされています。
わかりやすく言うと、病院の指示の下に行っている研鑽行為であれば、労働時間にあたり、残業代を請求できるということです。
抽象的な基準はなんとなくわかったけれど、実際にはどのような場合に「指揮命令下にある」といえるのかな?
医師の研鑽時間が労働時間にあたり得る場合・あたらない場合については、通達も出されており、ある程度の基準があります。
医師の研鑽時間が労働時間にあたり得る場合・あたらない場合について、ご説明します。
(2)医師の研鑽時間が労働時間にあたり得る場合
医師の研鑽時間については、厚生労働省から「医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方について」(令和元年7月1日 基発 0701 第9号労働基準局長通達)という通達が出されました。
この通達では、医師の研鑽時間が労働時間にあたり得る場合・あたらない場合についての解釈指針が示されています。
参考:医師の宿日直許可基準・研鑚に係る労働時間に関する通達|厚生労働省
この通達に基づけば、次のようなものは、病院の指揮命令下で行われたものとして労働時間にあたる可能性があります。
- 診療の準備のために不可欠な行為として行う調査や研究
- 診療に伴う後処理として不可欠な行為として行う調査や研究
「診療の準備のために不可欠な行為として行う調査や研究」とは、具体的には次のようなものが考えられます。
- 患者の治療にとって有効な手術について、その手術の留意点(予想される合併症など)を調査するため文献にあたる行為
- 特定の患者に投薬治療を予定しており、その使用される薬について副作用を最小限に抑える投薬方法を文献などで調査する行為
また、そもそも調査・研究などの研鑽を行うことを病院から指示された場合など、業務として研鑽を行っている場合には、当然この研鑽時間は労働時間に含まれます。
(3)医師の研鑽時間が労働時間にあたらない場合
医師の研鑽時間であっても、労働時間にあたらないとされる場合もあります。
先ほどの通達によれば、次の全てを満たす研鑽時間は、病院の中で行う研鑽であっても一般的には労働時間にあたりません。
- 業務上必須ではない行為として行うこと
- 自由な意思に基づいて行うこと
- 所定労働時間外に行うこと
- 自ら申し出て、上司の指示がないまま行うこと
このような要素を全て満たす場合には、病院の指示の下で研鑽を行っていると見ることは難しいです。
このように、病院の指示が全くなく、医師個人の自由な意思に基づいて研鑽を行っている場合には、労働時間にあたらないと言いやすくなります。
【まとめ】医師の研鑽時間も残業代を請求できる場合がある
この記事のまとめは次のとおりです。
- 医師の研鑽時間には、治療方法についての文献調査や新薬などについての勉強の時間など、さまざまなものがある。
医師の研鑽は、病院の命令に基づいて業務として行うこともあれば、医師が自発的に行うこともある。 - 医師が行う研鑽の時間が労働時間にあたるのであれば、その時間について賃金や残業代を請求することができる。
- 研鑽を行うことを病院から指示された場合や、そうでなくても診療の準備のために不可欠な行為として行う場合などについては、研鑽時間も労働時間にあたり得る。
- 病院の指示が全くなく、医師個人の自由な意思に基づいて研鑽を行っているような場合などには、研鑽時間が労働時間にあたらないと判断される可能性がある。
病院によっては、医師の研鑽時間は診療業務そのものではないからといって一律に残業代が支払われない場合もあります。
しかし、ここまででご説明したようにそのような取扱いは不適切です。医師の研鑽時間も、残業代を請求できる場合があります。
医師の研鑽時間は、決して好きに遊んでいるわけではありません。医師の研鑽時間は、医師として診療業務を行っていくためには欠かせないものです。そのような研鑽を行った以上は、残業代がもらえるのであればしっかりと請求することが大切です。
医師にとっては研鑽も仕事のうちです。仕事をしたのだから残業代を請求するというのは当たり前のこと。残業代を請求できる研鑽を行ったときには、きっちりと残業代を請求していきましょう。
アディーレ法律事務所は、残業代請求に関し、相談料、着手金ともにいただかず、原則として成果があった場合のみを報酬をいただくという成功報酬制です。
そして、原則として、この報酬は獲得した残業代からのお支払いとなり、あらかじめ弁護士費用をご用意いただく必要はありません。
また、当該事件につき、原則として、成果を超える弁護士費用の負担はないため費用倒れの心配がありません。
※以上につき、2024年3月時点
残業代請求でお悩みの方は、残業代請求を得意とするアディーレ法律事務所へご相談ください。