「親が死んで相続人になったけれど、相続放棄できる期間はいつまで?もしも後から借金があると分かったら相続放棄はできる?」
相続放棄ができる期間は、法律上「自己のために相続の開始があったこと知った時から3ヶ月以内」です。
その間に相続放棄などをせずに放っておくと、相続を承認したとみなされます。
それでは、後になってから、思わぬ被相続人の借金などが判明した場合、もはや相続放棄はできないのでしょうか?そんなことはありません。
「相続放棄の期間は、被相続人が死んでから3ヶ月」と理解されている方もいらっしゃるかもしれませんが、実は、その3ヶ月という期間は、必ずしも「被相続人の死亡から3ヶ月」というわけではありません。
その期間が経過しても、相続放棄が可能なケースもあるのです。
今回は、次のことについて弁護士がご説明します。
- 相続放棄ができる期間とその起算点
- 相続放棄ができる期間と伸長方法
- 相続放棄ができる期間経過後の相続放棄の可否 など
アディーレ法律事務所
同志社大学、及び、同志社大学法科大学院卒。2009年弁護士登録。アディーレに入所後、福岡支店長、大阪なんば支店長を経て、2022年4月より商品開発部門の統括者。アディーレがより「身近な法律事務所」となれるよう、新たなリーガルサービスを開発すべく、日々奮闘している。現在、神奈川県弁護士会所属
相続放棄ができる期間とその起算点
相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)のプラスの財産もマイナスの財産も含めて一切の相続財産の相続を拒否して、相続人でなくなることです。
相続放棄ができる期間は、『自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内』です。この期間を『熟慮期間』といいます。
ここで注意したいのは、相続放棄ができる期間の起算点は「相続の開始時」(被相続人の死亡時)からではないという点です。
相続放棄ができる期間の起算点を被相続人の死亡時とすると、自分が相続人になったことを知らない場合に、いつの間にか3ヶ月が経ってしまい相続放棄ができなくなるという不都合が生じます。
ですから、熟慮期間の起算点は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」なのです。
「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、基本的には、次のいずれの事実も知った時です。
- 相続開始の原因となる事実(※)
- 自分が法律上、相続人になった事実(※※)
(※相続人が死亡した事実です。現に被相続人が死亡したことが確認できる場合に加え、失踪宣告を受ける場合もあります。)
(※※先順位の相続人が相続放棄をしたために後順位の相続人が相続人となった場合や、死後に認知された場合など、被相続人の死亡から時間的にずれることもあります。)
自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月間何もしなかったらどうなりますか?
その場合、相続を単純承認したとみなされます(民法921条2号)。
相続を承認したくないのであれば、3ヶ月以内に「相続放棄」又は「限定承認」(相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐ場合)をしなければいけないのです。
熟慮期間は伸ばすことができる可能性がある
3ヶ月という期間は、決して長いとはいえません。
被相続人の財産の内容を熟知している場合ならともかく、生前、被相続人にどんな財産があるかも全く知らなかったという場合には、3ヶ月でその全てを調べて相続をするか相続放棄をするか決めるのはなかなか大変です。
そこで、相続人になった方は、家庭裁判所に対し、熟慮期間を延ばすように熟慮期間の伸長の申立てをすることができます。
そして、家庭裁判所が認めると、熟慮期間が延びますので、その間に相続をするか相続放棄をするか決めることができるのです。
熟慮期間の伸長は、必ず家庭裁判所に認めてもらわなければいけません。
熟慮期間の伸長の申立てもせずに熟慮期間が経過してしまうと、相続を承認したとみなされますので注意してください!
参照:相続の承認又は放棄の期間の伸長|裁判所 – Courts in Japan
相続放棄は、必ず家庭裁判所に相続放棄の申述をして受理される必要がある
相続放棄をする場合、単に「相続を放棄する」と主張するだけでは足りません。
相続放棄のためには、熟慮期間中に、必ず家庭裁判所に相続放棄の申述をして受理されなければいけないのです。
申述先は、被相続人(亡くなった方)が死んだ時に住んでいた、最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
相続放棄をしたい場合には、必要書類を集めた上で、家庭裁判所に提出して相続放棄の申述をします。家庭裁判所が申述を受理すれば、相続放棄の手続は終了です。
相続放棄に必要な書類について詳しくはこちらをご覧ください。
家庭裁判所に相続放棄の申述を受理されなければ、相続放棄をしたとは言えません。
例えば、被相続人の債権者から債務の返済を迫られた場合に相続放棄をしたことを理由に返済を拒否することはできないので注意してくださいね。
参照:相続の放棄の申述|裁判所 – Courts in Japan
被相続人の死亡から時間が経って借金が判明!相続放棄はできる?
「親が死んで相続をしたけれど、しばらくして借金があることが分かったから相続放棄をしたい…。」こんな相談は少なくありません。
先ほどご説明した熟慮期間が経過していると、基本的には相続放棄はできません。
ですから、被相続人が死亡した場合には、速やかに被相続人の財産状況を調べて相続放棄をするかどうかを決めなければいけないのが大前提です。
ただし、調査した時点では債務の存在に気が付かず、後になって、全く予想していない借金などが発覚するということもあります。
実は、「被相続人が死亡したこと及び自分が相続人になったことの双方を知った時」から3ヶ月経過していても、絶対に相続放棄ができないというわけではありません。
この点、判例は、次のような場合には、相続放棄ができる期間の起算点を「相続人が相続財産の全部もしくは一部の存在を認識した時(または通常これを認識しうべき時)」から起算するのが相当としています。
- 被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたため、相続放棄をしなかったこと
- そのように信じたことについて相当な理由があると認められること
相当な理由があると認められるかどうかは、被相続人の生活歴・被相続人と相続人との交際状況など諸般の状況から判断されます。
この判例の事案は、父親(被相続人)が死亡して子供(相続人)が相続人になったところ、父親が連帯保証をしている債務について債権者から弁済を求められたという事案でした。
事案では、連帯保証契約は被相続人と相続人が没交渉となって約10年後に締結されており相続人は契約について何も知らず、被相続人が生前生活保護を受給して生活していたことなどから資産はないと思い、相続に関する手続をなにもしませんでした。
その後、被相続人の死後約1年経ってから連帯保証契約について知ったため、相続人が相続放棄の申述をしたのです。
この事案で、裁判所は、相続人による相続放棄の申述は適法であると判断しました。
「相続財産が全くないと信じていて、そう信じるについて相当な理由があった」場合には、借金などの存在を知ってから3ヶ月以内であれば、適法に相続放棄ができる可能性があります!
被相続人が死亡してご自身が相続人になったと知った時から3ヶ月以上経過しているけれど、借金が判明したために相続放棄をしたいという方は、大至急、弁護士にご相談ください。
相続放棄を検討中の方は、「法定単純承認」に注意を!
法定単純承認とは、相続放棄の申述をする前に相続財産の全部又は一部を処分してしまうことにより、相続を承認したとみなされて、相続放棄ができなくなることです(民法921条1号)。
例えば、次のような行為をすると、相続放棄ができなくなる可能性が高いです。
- 被相続人の預金を引き出して、自分のために使ってしまう
- 被相続人が他の人に貸していたお金を取り立てて、自分のために使ってしまう
- 被相続人が持っていた株式の議決権を行使する
- 被相続人が他人に貸していたマンションの家賃の振込口座を自分名義の口座に変更する
- 被相続人が借りていたマンションを解約してしまう
- 他の相続人との間で遺産分割協議をする など
他方、相続財産から葬儀費用、墓石の購入費などを支払ったり、壊れた不動産を修繕したり、形見分け(※一般的な価値はあるが、経済的に重要性を欠くもの)をしたりするような行為であれば、法定単純承認にはあたらない可能性が高いです。
割合は少ないですが、毎年、相続放棄の申述が受理されないケースは一定数存在します。
2020年度に全国の家庭裁判所が受理した相続放棄の申述は24万8374件、既済件数23万3325件のうち、426件が却下されています。
参照:家事審判事件の受理,既済,未済手続別事件別件数|裁判所 – Courts in Japan
相続放棄の手続の流れについて詳しくはこちらの記事をご確認ください。
【まとめ】被相続人の死亡後、一定期間が経過してから借金などが発覚した場合も相続放棄ができる可能性がある
今回の記事のまとめは、次のとおりです。
- 相続放棄は一定の期間(熟慮期間)中に家庭裁判所に申述をして受理されなければいけない。
- 相続放棄ができる期間は、基本的には次の事実を知った時から3ヶ月。
- 相続の開始の原因となる事実
- 自分が法律上、相続人になった事実
- ただし、相続財産が全くないと信じていて、そう信じるについて相当な理由がある場合には、相続財産の存在を知った時(又は知ることができた時)から3ヶ月以内であれば、適法に相続放棄ができる場合もある。
相続は、相続人の意思とは無関係に、被相続人の死亡によって当然に発生します。
ですから、望まぬ相続を拒否するために、相続人には相続放棄という手段が用意されているのです。
他方、いつまでも相続放棄ができるとすると、相続財産をめぐる権利関係がいつまでも確定せずに法的安定性が害されてしまいます。
ですから、相続放棄ができる期間を一定期間に限定することはとても大切で、そのために熟慮期間が設けられているのです。
ご自身が相続人になったという方は相続財産について調査をした上で相続をするかどうか決めて、相続放棄をする場合には速やかにお手続きください。
アディーレ法律事務所では、相続放棄に関するご相談は何度でも無料ですので、フリーコール「0120-554-212」までご連絡ください。
アディーレ法律事務所に相続放棄をご依頼いただければ、次のことを弁護士が代わりに行います。
- 戸籍謄本の収集
- 相続人の調査
- 裁判所に対して行う相続放棄の申述
- 裁判所からの照会書に対する対応
- 相続放棄申述受理通知書の受領
- 支払いの督促をされている債権者へ相続放棄したことの連絡
- 後順位相続人へのご連絡及びご説明
これにより、ご依頼者様の負担を減らすことができます。
もし、相続放棄のお手続が完了しなかった場合(相続放棄の申述が受理されなかった場合)、弁護士費用は、原則として全額返金となりますので、安心してご依頼いただけます。
(※以上につき2022年11月時点)
アディーレ法律事務所では、相続放棄を積極的に取り扱っています。
相続放棄でお悩みの方は、アディーレ法律事務所(フリーコール「0120-554-212」)にご相談ください。