「労働基準監督署と弁護士、どっちに相談したらいいんだろう?」
職場環境についての悩みを抱えていて、相談先に迷っていませんか?
労働基準監督署は、企業が労働基準法などに違反していないか監督し、違反があれば是正勧告を出すことなどによって改善を図ってくれる機関です。
相談は無料で、基本的に相談者の費用負担はありません。
ただし、企業が労働基準監督署からの是正勧告などに従わない場合、問題が解決しないおそれもあります。また、労働問題といってもパワハラや不当解雇などについての場合、労働基準監督署では対応してくれない可能性があります。
一方、弁護士は、パワハラや不当解雇などについても相談することができます。
この記事を読んでわかること
- 労働基準監督署で相談できることや、相談のための準備
- 労働基準監督署への相談方法
- 労働基準監督署と弁護士の違い
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
労働基準監督署について
まず、労働基準監督署がどのような機関なのかをご説明します。
(1)労働基準監督署ってどんなところ?
労働基準監督署とは、企業が労働についての法令(労働基準関係法令。労働基準法や最低賃金法などです)をきちんと守っているかどうかを監督する機関で、全国に設置されています。
労働基準監督署の「労働基準監督官」は労働基準関係法令の違反が疑われる企業について、企業側からの事情聴取や現地での調査(臨検。労働基準法101条1項)などを行うことができます。
そして、企業が労働基準法などに違反していた場合、改善を求める「是正勧告」を出すことなどの働きかけを行うことで、法令違反の是正を図ります。
また、労働基準監督官は、労働基準法違反の罪について、逮捕や逮捕に伴う捜査・差押えなども行うことができます。
労働基準監督署の役割について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
(2)労働基準監督署で相談できる労働問題とは?
労働基準監督署は、企業が労働基準関係法令に違反していないかを監督する機関です。
そのため、相談できるのは労働基準関係法令の違反についてということになります。
例えば、次のようなことを相談できます。
- 賃金や残業代を支払ってもらえない
- 最低賃金未満の賃金しか支払ってもらえない
- 有給休暇を取らせてもらえない
一方、例えば次のような問題は労働基準関係法令の違反ではないので、労働基準監督署に相談しても対応してもらえないおそれがあります。
- パワハラやセクハラを受けている
…パワハラやセクハラは、基本的には民法の問題です。 - 不当解雇を受けた
…解雇が正当なものか不当なものかは、基本的に労働契約法の問題です。
私の労働問題は、労働基準監督署に相談できるかどうか分かりません……。
どうしたらいいでしょうか?
どこに相談すればいいか分からない場合には、労働問題について幅広く相談することができる、「総合労働相談コーナー」もおすすめです。
労働問題について、電話や面談で相談することができます。
総合労働相談センターに相談しただけでは問題を解決できないケースもありますが、解決するのに適した機関を案内してもらえる可能性があります。
参考:総合労働相談コーナーのご案内|厚生労働省
参考:労働基準監督署ではどんな相談ができますか?|厚生労働省
(3)労働基準監督署への相談方法
労働基準監督署に相談したいと思った場合には、ご自身が抱えている労働問題についての証拠を集めましょう。
労働基準監督署での相談は何度でも無料ですが、証拠をあらかじめ集めておくことで、より的確なアドバイスを受けられる可能性があります。
例えば、残業代を支払ってもらえないことについて相談したい場合には、次のような証拠を集めることがおすすめです。
- 働いた時間を示す資料(タイムカードなど)
- 雇用契約書や就業規則
- 給与明細書 など
残業代を支払ってもらえない場合に集めるべき証拠について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
しっかりとした証拠を集めるほど、労働基準監督署がスムーズに調査に移ってくれる可能性があります(証拠が不十分な場合には、より確実な証拠がある案件が優先されて、相談しても対応してもらえないおそれもあります)。
また、相談をスムーズに進めるためには、問題の内容や悩みを事前に整理しておくことがおすすめです。
労働基準監督署への相談の方法には次の3つがあります。
- 労働基準監督署での面談
- 電話
- メール
労働基準監督署に相談する準備について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
労働問題について、労働基準監督署と弁護士どちらに相談する?
労働問題について相談できるのは、労働基準監督署だけではありません。
労働問題を取り扱っている弁護士にも、相談することができます。
(1)労働基準監督署と弁護士の違いとは?
労働基準監督署と弁護士の主な違いは、次の表のようになります。
労働基準監督署 | 弁護士 | |
---|---|---|
費用 | 相談、調査など全て無料 |
|
証拠集め | まずは労働者が自力で有用な証拠を集めておかないと、相談しても調査などの対応をしてもらえないおそれがある | 証拠が不十分な場合も、証拠集めを含めて依頼することができる場合がある |
企業側との交渉や訴訟 | 企業側が労働基準監督署の是正勧告などに従わない場合、改めて労働者が自力で交渉などをしなければならないおそれがある | 交渉や、企業が交渉に応じない場合には、裁判所での手続き(労働審判や訴訟など)を任せることができる →依頼者本人は、基本的に企業と直接交渉せずに済む |
労働基準監督署は、企業が労働基準関係法令に違反していないかを監督し、違反している企業に対しては指導などを通じて是正を図ります。しかし、労働基準監督署は労働者の代理人になるわけではありません。
そのため、例えば残業代が未払いになっている事件で労働基準監督署にできることは、基本的には「きちんと残業代を払うように」という是正勧告にとどまります。
是正勧告に企業が従わず残業代を支払ってくれない場合、労働基準監督署が代わりに残業代を請求してくれるわけではないので、改めて自分で企業と直接交渉して請求するなどの必要があります。
一方、弁護士に残業代請求を依頼した場合、弁護士は依頼を受けた事件について「代理人」となりますので、依頼者自身が事件について会社と交渉などをする必要は基本的にありません。
そのため、残業代を請求したいのであれば、弁護士に相談した方がよりスピーディーに解決し、ストレスも小さくできると考えられます。
残業代請求を弁護士に依頼するメリットについて詳しくはこちらの記事をご覧ください。
(2)労働問題について、弁護士にできること
それでは、労働問題について弁護士にできることを改めてご説明します。
例えば残業代請求の場合、残業代の正確な計算などは弁護士が行います。
そして、企業側が支払いに応じない場合には、弁護士は残業代を強制的に回収するため、訴訟や労働審判などといった手続きに移行します。
また、先ほどご説明したように、労働基準監督署ではパワハラやセクハラ、不当解雇については基本的に対応してくれません。
しかし、弁護士の場合、こうした労働問題についても合わせて対応してもらえる可能性があります。
例えば、パワハラやセクハラについては次のような対処法が考えられます。
- 加害者本人に、慰謝料を請求する
- 職場環境を改善しなかったことについて、企業側に慰謝料を請求する
また、不当解雇については、次のようにして企業と争うことができる可能性があります。
- 「解雇は無効だから、まだ在籍している」と主張する
- 「会社が不当な解雇をしたため、働きたくても働けない状態にあるのだから、給料の支払いを受ける権利は失われない。会社は給料を支払うべきだ」と主張する
このような請求が上手く行く可能性があるかどうかについて、弁護士は事情を聴いたうえで見通しを立てることができます。
そのため、労働基準監督署では対処してもらえないおそれのある問題については、弁護士に相談してみると良いでしょう。
パワハラなどのハラスメントを受けた場合の対処法について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
不当解雇を受けたと感じた際の対処法について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
(3)労働問題を相談、依頼する弁護士の選び方
弁護士を選ぶ際のポイントは、主に次の3つです。
1.労働問題に「強そう」か
…法律事務所のホームページに、実際の解決事例が掲載されていることがあります。自分の抱えている労働問題と似たケースが載っていれば、載っていない法律事務所よりも安心して依頼できるでしょう。
2.誠実に対応してもらえそうか
…相談無料という法律事務所もあります。まずは相談だけでもしてみて、「この弁護士になら、安心して任せられそう」と思えたら依頼することをおすすめします(相談したからといって、その弁護士に必ず依頼しなければならないわけではありません)。
3.費用体系が明確かどうか
…弁護士費用は、企業側から回収できた金額などに応じて高くなる傾向があります。弁護士費用はけっして安くはないので、費用体系についてはっきりと説明してくれないところへの依頼は避けるべきです。
【まとめ】労働基準監督署よりも弁護士の方が、労働問題の早期解決につながる可能性がある
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 労働基準監督署とは、企業が労働基準関係法令を守っているかどうか監督し、指導を行う機関のこと
- 労働基準監督署には、労働基準関係法令の違反について(賃金や残業代の未払いなど)相談することができる
- 労働基準監督署と弁護士の主な違いは、次の3つ。
労働基準監督署 | 弁護士 | |
---|---|---|
費用 | 相談、調査など全て無料 |
|
証拠集め | まずは労働者が自力で有用な証拠を集めておかないと、相談しても調査などの対応をしてもらえないおそれがある | 証拠が不十分な場合も、証拠集めを含めて依頼することができる場合がある |
企業側との交渉や訴訟 | 企業側が労働基準監督署の是正勧告などに従わない場合、改めて労働者が自力で交渉などをしなければならないおそれがある | 交渉や、企業が交渉に応じない場合には、裁判所での手続き(労働審判や訴訟など)を任せることができる →依頼者本人は、基本的に企業と直接交渉せずに済む |
企業によっては、労働基準監督署からの是正勧告に素直に従うこともありますが、ご自身の勤務先が必ずしもそうだとは言い切れません。
また、ご自身が集めた証拠だけでは、労働基準監督署が動いてくれないおそれもあります。
そのため、弁護士に相談や依頼をする方が、根本的な問題解決につながる可能性が高いといえるでしょう。
どちらに相談するか迷っている方は、両方に相談してみて、労働基準監督署だけでは問題が解決しそうにない場合に弁護士への依頼を検討してみることをおすすめします。
労働問題について弁護士に依頼したいときは、「労働問題に強そうかどうか」「誠実に対応してもらえそうか」「費用体系が明確かどうか」などに注目してみてください。