婚姻費用を計算するときに、住宅ローン分を考慮する必要はある?

  • 作成日

    作成日

    2023/07/06

  • 更新日

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    2023/07/06

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目次

婚姻費用を計算するときに、住宅ローン分を考慮する必要はある?
「夫が、突然荷物をまとめて出て行って、生活費がもらえない。私はパートタイムで働いているが、私の収入だけでは子どもと生活できない。別居していても、私より収入のある夫に生活費を支払うよう請求できないか」

このような場合であっても、別居していても結婚していることに変わりはありませんから、妻は夫に対して、婚姻費用の分担を請求することができます。

ただ、あなたが住んでいる住宅の住宅ローンを夫が支払っている場合には、婚姻費用の金額の算定にあたって住宅ローンを考慮する必要があります。

夫婦のうち「どちらが住宅ローンのある住宅に住んでいるのか」、「どちらが住宅ローンを支払ってのか」で住宅ローンを婚姻費用の算定に考慮すべきかどうかが変わってきます。また、住宅ローンを婚姻費用の算定に考慮しなくてもよいケースもあります。
婚姻費用を請求する前に、住宅ローンを婚姻費用の関係について知っておきましょう。

今回は、婚姻費用を計算する際に、住宅ローンがどう関係してくるのかを解説していきます。

婚姻費用と住宅ローンの関係とは

ここでは、住宅ローンと婚姻費用の関係についてみていきます。

(1)婚姻費用とは

ここでは、住宅ローンと婚姻費用の関係についてみていきます。

夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
引用:民法第752条
婚姻費用の中身は、具体的には、主に別居中の配偶者と子どものための、住居費・食費・学費などになります。

婚姻関係が続いている限りは、たとえ別居をしていたとしても、収入の多いほうから少ないほうへ支払う義務があります。

婚姻費用は、一般には、最高裁判所が公表している養育費・婚姻費用算定表に基づいて算定されます。
養育費・婚姻費用算定表では、夫婦の年収を基準に各種のケースを想定した算定表が作成されています。
夫婦のみの場合、子どもがいる場合はその人数(1~3人)および年齢(0~14歳と15~19歳の2区分)などに応じて、それぞれのケースに合わせた表にあてはめ、婚姻費用を算出します。

もっとも、住宅ローンがある場合は、単純に夫婦双方の収入を算定表に当てはめて婚姻費用を算出することができないので、もめる要因になりやすいのが実情です。

(2)住宅ローンの2つの側面

まず1つ目として、資産形成のための費用という側面があります。
すなわち、住宅ローンの残高が減るにつれて自宅不動産の財産価値が上昇していきます。

2つ目としては、生活費の一部である住居費の負担が減っていくという側面です。
すなわち、支払うことで住居が確保できるということになります。

(3)婚姻費用の算定にあたり住宅ローンの考慮が必要なケースがある

住居に住んでいない方にとっては、住宅ローンは住居を確保するための費用ではなく、資産形成のための費用となります。
婚姻費用分担額を減らすことは、資産形成を生活保持義務に優先することとなるので、原則として婚姻費用の減額はできないということになります。

したがって、住宅ローンは、財産分与で考慮されるべきで婚姻費用の算定には考慮しないということになります。

ですが、義務者が住宅ローンの支払いを継続する場合など、婚姻費用算定時に減額調整をしなければ不公平になることもあるので注意が必要です。

(4)住宅ローンの減額調整方法

婚姻費用算定時に住宅ローンの減額調整を行う方法としては、次の2通りがあります。
  1. 単純に実際の収入額から住宅ローンの支払額を特別経費として控除して算定する方法
  2. 算定表の相場金額から住宅ローンの支払金額を差し引いて算定する方法

婚姻費用の算定で住宅ローンを考慮すべき場合・しなくてもよい場合

住宅ローンの残っている家にどちらが住んでいるか、どちらが住宅ローンを負担しているかで、婚姻費用算定時に住宅ローンのことを考慮すべきかどうかは変わってきます。

これを、パターン別に分けて解説していきます。

(1)住居に義務者が居住している場合

住宅ローンの残る住居に婚姻費用を負担する義務者(たいていは夫)が居住している場合、住宅ローンを支払っていることは婚姻費用の算定に考慮されるのでしょうか。

(1-1)義務者が住宅ローンを支払っている場合

この場合は、資産形成のための費用と同時に、住居確保のための費用も義務者が支払っていることになります。
後者については、婚姻費用算定にあたり、特別経費としてすでに控除されています。

権利者にとっては、婚姻費用を減額することは資産形成を生活保持義務に優先させることとなるので、ふさわしくないということになります。
したがって、婚姻費用の金額算定に住宅ローンは考慮されません。

(1-2)権利者が住宅ローンを支払っている場合

この場合は、権利者(妻の場合が多い)が住宅ローンを支払うことによって、義務者が住居費用の支出を免れているということになります。

そのために、婚姻費用の算定にあたっては、義務者がその分の補填のために、婚姻費用に上乗せをする必要が出てきます。

(1-3)義務者・権利者の双方が住宅ローンを支払っている場合

義務者・権利者の双方とも、住居費用の支払いを免れているわけではないことになります。

そのため、この場合は、婚姻費用の算定にあたっては、考慮は不要ということになります。

(2)住居に権利者が居住している場合

逆に、住宅ローンの残る住宅に、婚姻費用をもらうほうの権利者(たいていは妻)が居住している場合には、婚姻費用に住宅ローンがどのように影響するのでしょうか。

(2-1)義務者が住宅ローンを支払っている場合

この場合は、義務者が住居費を二重に負担していることになります。
そして、権利者は住居費の支払いを免れているということになります。

こうした場合は、義務者が住宅ローンを負担していることを考慮して、婚姻費用が算定されることが多いです。
そうした判断を示した事例のひとつが、東京家裁判決平成27年6月17日(判タ1424号346頁)になります。

この事例では、義務者である夫が、自宅を出て、妻および子らと別居し、賃貸アパートで生活するようになっていました。
この夫が、自宅を売却するまでの間、自宅の住宅ローンを負担していたという事案です。

審判では、「算定から権利者の総収入に対応する標準的な住居関係費を控除するのが相当」と判断されました。

(2-2)権利者が住宅ローンを支払っている場合

この場合には、自分が住んでいるところの住居費を負担しているにすぎません。

したがって、婚姻費用の算定にあたって、増額のための考慮は不要ということになります。

(2-3)義務者・権利者の双方が住宅ローンを支払っている場合

権利者については、住宅ローンを支払っているといっても、自分のために住居費を支払っているに過ぎません。

義務者についても、権利者の負担金額が不当に低いといった事情がない限りは、婚姻費用の減額は考えなくてもよいということになります。

(3)どちらも住宅に居住していない場合

この場合は、どちらにとっても資産形成のための費用ということになりますので、義務者・権利者のいずれも、婚姻費用算定のための考慮は不要となります。

【まとめ】婚姻費用の算定で住宅ローンを考慮すべき場合・しなくてもよい場合がある

今回の記事のまとめは、次のとおりです。
  • 住居に義務者が居住している場合
・義務者が住宅ローンを支払っている場合:住宅ローンを考慮しない
・権利者が住宅ローンを支払っている場合:住宅ローンを考慮する
・義務者・権利者の双方が住宅ローンを支払っている場合:住宅ローンを考慮しない
  • 住居に権利者が居住している場合
・義務者が住宅ローンを支払っている場合:住宅ローンを考慮する
・権利者が住宅ローンを支払っている場合;住宅ローンを考慮しない
・義務者・権利者の双方が住宅ローンを支払っている場合:住宅ローンを考慮しない
  • どちらも住宅に居住していない場合:住宅ローンを考慮しない
今回の記事では、婚姻費用についてご説明しました。婚姻費用はあくまでも婚姻期間中の生活に必要となる費用のことですが、夫婦関係が不仲な期間や別居期間を経て、離婚を検討される方も少なからずいらっしゃいます。

夫婦関係が不仲な期間や別居期間を経て、離婚を決意した場合には、離婚問題を取り扱うアディーレ法律事務所へのご相談を検討ください。

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この記事の監修弁護士

慶應義塾大学卒。大手住宅設備機器メーカーの営業部門や法務部での勤務を経て司法試験合格。アディーレ法律事務所へ入所以来、不倫慰謝料事件、離婚事件を一貫して担当。ご相談者・ご依頼者に可能な限りわかりやすい説明を心掛けており、「身近な」法律事務所を実現すべく職務にまい進している。東京弁護士会所属。

林 頼信の顔写真
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