「慰謝料ってどうやって計算するのだろう?」
「保険会社から提案された慰謝料額は、きちんと適切な金額になっているのかな」
交通事故の慰謝料は、被害者の「精神的苦痛」を慰謝するものですから、個々の事案によって金額は異なります。
また、「慰謝料」を計算する基準は3つあり、どの基準で計算したかによっても慰謝料額は違ってきます。
保険会社が計算した慰謝料は、あなたが本来請求できる慰謝料よりも低額であることが多いです。そのような場合、弁護士に交渉を依頼すると、最終的に受け取れる賠償金が増額する可能性があります。
今回の記事では、次のことについて弁護士が解説します。
この記事を読んでわかること
- 慰謝料の計算方法(3つの基準)
- 交通事故で慰謝料以外に請求できる損害賠償項目
- 休業損害・逸失利益の計算方法
岡山大学、及び岡山大学法科大学院卒。 アディーレ法律事務所では刑事事件、労働事件など様々な分野を担当した後、2020年より交通事故に従事。2023年からは交通部門の統括者として、被害に遭われた方々の立場に寄り添ったより良い解決方法を実現できるよう、日々職務に邁進している。東京弁護士会所属。
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交通事故でもらえる慰謝料
交通事故にあいケガをしたという場合には、次の慰謝料を請求できる可能性があります。
入通院慰謝料(傷害慰謝料) | 交通事故によるケガで入通院した場合 |
後遺障害慰謝料 | 交通事故によるケガで後遺障害が残った場合 |
死亡慰謝料 | 交通事故で被害者が死亡した場合 |
たとえば、交通事故でケガをして完治した、という方は入通院慰謝料を請求できます。また、交通事故のケガで後遺症が残り後遺障害等級認定を受けた、という方は、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料の両方を請求することができます。
後遺障害等級認定について詳しくはこちらをご覧ください。
慰謝料を計算する3つの基準とは?
慰謝料を計算する時の基準は3つあり、どの基準で計算するかによって慰謝料額は異なってくるので、自分にとって一番有利となる基準で計算する必要があります。
保険会社が提案する慰謝料額は、自分にとって一番有利となる基準で計算するよりも低額なことがほとんどです。なので、示談前に交渉により増額できないかをしっかり検討しなければなりません。
通常は、自賠責の基準が一番低く、弁護士の基準が一番高くなります(※)。任意保険会社の基準は、各社が定めており公開されていませんが、自賠責の基準と同程度か多少上乗せした程度であることが多く、弁護士の基準には及ばないのが通常です。
※ただし、自賠責保険金額は交通事故の7割未満の過失については減額対象にしませんので、ご自身の過失割合が大きい場合には、自賠責の基準がもっとも高額となることもあります。
なぜ基準が3つもあるのですか?
自賠責保険は必要最低限度の被害者の救済を目的としているため、保険金額自体はそれほど高くありません。
そこで、自賠責保険ではカバーできない被害については、一般的に任意保険でカバーされています。しかし、自賠責保険や任意保険では低すぎて被害者にとって酷なケースがあるということで、実際の裁判例がいくつも積み重ねられた結果、弁護士に依頼して交渉などした場合の基準値として、現在の弁護士の基準というものができたのです。
慰謝料の相場と計算方法について詳しくはこちらをご覧ください。
慰謝料の計算方法
慰謝料には3つの基準があることを前提に、慰謝料の計算方法についてご説明します。交通事故の損害賠償項目のうち、けがの程度にもよりますが、特に慰謝料は高額になることがあり、そのため加害者側の保険会社との交渉が難航することがあります。そのため、慰謝料の計算方法について理解するようにしましょう。
ここでは、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料の計算方法をご説明します。
死亡慰謝料について詳しくはこちらをご覧ください。
(1)入通院慰謝料の計算方法
入通院慰謝料について、自賠責の基準と弁護士の基準の計算方法をそれぞれ説明します。
慰謝料の金額は、入通院の日数を基準に算出されます。次の具体例で、どの程度の入通院慰謝料が認められるか、基準別に見ていきましょう。
入院期間 2ヶ月
通院期間 3ヶ月
実通院日数 30日間
【自賠責の基準】
自賠責の基準では、次の1・2のうち少ない金額のほうが採用されます(2020年4月1日以降に発生した事故の場合)。
(※1ヶ月は30日として計算します)
上記の事例にあてはめると、次のような計算式となります。
- (実入院日数60日+実通院日数30日)×4300円×2=77万4000円
- 入通院期間(入院期間60日+通院期間90日)×4300円=64万5000円
1と2を比べると2の方が少ないため、自賠責の基準では、認められる入通院慰謝料は64万5000円です(※)。
※自賠責保険では支払われる保険金の上限が決まっており、けがをした場合(後遺障害等級認定なし)に支払われる保険金の上限は120万円です。【弁護士の基準】
他方、弁護士の基準は次の表のとおりです(※)。
打撲や他覚症状のないむち打ちなど軽傷な場合は109万円(別表Ⅱ)、その他のケガの場合は154万円(別表Ⅰ)となります。
※次の表から導き出される金額は、あくまでも「基準額」であり、この金額が必ずしも交渉や裁判で認められるとは限りません。
別表Ⅰ(原則・一部抜粋) (単位:万円)
入院 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | |
通院 | 53 | 101 | 145 | 184 | 217 | |
1月 | 28 | 77 | 122 | 162 | 199 | 228 |
2月 | 52 | 98 | 139 | 177 | 210 | 236 |
3月 | 73 | 115 | 154 | 188 | 218 | 244 |
4月 | 90 | 130 | 165 | 196 | 226 | 251 |
5月 | 105 | 141 | 173 | 204 | 233 | 257 |
別表Ⅱ(むち打ち症で他覚症状がない場合・一部抜粋) (単位:万円)
入院 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | |
通院 | →A ↓B | 35 | 66 | 92 | 116 | 135 |
1月 | 19 | 52 | 83 | 106 | 128 | 145 |
2月 | 36 | 69 | 97 | 118 | 138 | 153 |
3月 | 53 | 83 | 109 | 128 | 146 | 159 |
4月 | 67 | 95 | 119 | 136 | 152 | 165 |
5月 | 79 | 105 | 127 | 142 | 158 | 169 |
参考:民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準上巻(基準編)|公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部 別表ⅠⅡ
横の「入院」の列と、縦の「通院」の列について、それぞれ該当する列が交わるところの金額が入通院慰謝料です。
今回の例では入院期間2ヶ月、通院期間3ヶ月ですので(弁護士の基準では、実通院日数ではなく、通院「期間」を基準に考えます)、別表Ⅰでは154万円、別表Ⅱでは109万円となります。
そうすると、入院期間2ヶ月、通院期間3ヶ月、実通院日数30日間のケースで、自賠責の基準と弁護士の基準の差は次のとおりです。
自賠責の基準 | 弁護士の基準 | |
入通院慰謝料 | 64万5000円 | 154万円 |
109万円 (むち打ち・他覚症状なし等軽傷の場合) |
同じ入通院慰謝料でも、使う基準によりかなり金額が異なることが分かります。
任意保険会社の基準は、各保険会社によって異なりますが、基本的には自賠責の基準に近いです。
(2)入通院慰謝料の計算でよくある質問
入通院慰謝料の計算についてよくある質問について回答します。
(2-1)入通院期間が1ヶ月で割り切れないときはどうするの?
入通院期間が、ぴったり1ヶ月ではないことも多いです。
例えば入院期間が100日、という場合を弁護士の基準・別表Ⅰで計算してみましょう。
100日というのは3ヶ月+10日ですから、まず、入院3ヶ月と入院4ヶ月の金額をそれぞれ確認します。
3ヶ月が145万円、4ヶ月が184万円ですね。
その1ヶ月分の差額39万円(184-145)万円を30日で割って、10日分を計算するのです。
39万円÷30日×10日=13万円ですので、3ヶ月分の145万円と併せて、158万円になります。
(2-2)入院が必要と言われたけど、事情があって入院しなかった場合は?
お子さんが小さい、どうしても仕事に行かなければいけない、などというやむを得ない事情で、本来は入院すべきなのに無理を押して帰宅して通院治療をする方もいます。そのような場合には、実際の通院期間の基準から増額されることもあります。
また、入院待機中や、ギプス固定中など、実際には自宅にいたけれども、安静を要するケースでは、その期間も入院期間に加算されることもあります。
(3)後遺障害慰謝料の計算方法
後遺障害慰謝料は、後遺障害等級認定を受けた時に請求できる慰謝料です。
後遺障害等級は1~14級までありますが、その等級によって慰謝料の金額が異なります。後遺障害等級認定について詳しくはこちらをご覧ください。
後遺障害慰謝料は、次のとおり、自賠責の基準と弁護士の基準とで大きく金額が異なります。
【自賠責の基準と弁護士の基準】
任意保険会社の基準は、各会社によって異なりますし、公表されていませんが、通常は自賠責保険の基準よりも高いものの、弁護士の基準には及びません。
交通事故でけがをした時に請求できる慰謝料以外の補償
交通事故の被害にあいけがをしたという場合、加害者に対して慰謝料の他にも、様々な項目の損害賠償請求ができます。
加害者に請求できる損害賠償の項目は、主に次のとおりです。
さらに、後遺障害等級認定を受けた場合には、次の項目の賠償請求が可能です。
しっかりと被害を補償してもらうためには、あなたが請求できる損害賠償の項目について、もれなく請求する必要があります。もれがあるかないかは、個人で判断するのには困難なケースがありますので、示談前に一度弁護士に相談するようにしましょう。
次では、けがの程度によっては、高額になりやすい休業損害と逸失利益の計算方法について説明します。
(1)休業損害の計算方法
休業損害の計算方法は、次のとおりです。
このうち、「日額基礎収入」について、自賠責の基準は日額6100円です(※2020年4月1日以降に発生した事故の場合)。
ただし、実際の収入が6100円を上回っていたことが証明できる場合には1万9000円までの範囲内で増額されます。
(2)休業損害の計算についてよくある質問
休業損害の計算についてよくある質問と回答をご紹介します。
(2-1)有休を使った場合でも、休業損害はもらえますか?
有休を使った日数分も休業損害の計算に加えることができます。
本来は自由に使えたはずの有休を、治療のために使わざるを得なかったことが損害と認められるためです。
(2-2)日払いの仕事のため、休むと給料が出ないので困ります。すぐもらえますか?
加害者が任意保険の契約をしている場合、休業損害は示談前であっても支払われることがあるので、保険会社に先に払ってもらえないかご相談ください。
自賠責保険しか契約していない場合、自賠責保険会社に対して被害者請求をすることができます。
被害者請求について詳しくはこちらをご覧ください。
(2-3)専業主婦は、休業損害はもらえませんか?
専業主婦の方でも休業損害を請求できます。
専業主婦の休業損害については、加害者の保険会社の提示する損害額と弁護士が基準とする損害額が特に大きく異なるので、注意が必要です。
保険会社は専業主婦の「日額基礎収入」を6100円/日としますが、弁護士は「賃金センサス」の女性労働者の全年齢平均賃金額を日額基礎収入額としますので、(毎年変わりますが)基本的には日額1万円を超えます。
専業主婦(主夫)の休業損害について詳しくはこちらをご覧ください。
(2-4)事故当時無職だと、休業損害はもらえない?
交通事故により失う収入がない以上、基本的には請求できません。
ただし、就職が決まっていたような場合や、間近に就職する見込みがあった場合など、休業損害を請求できることもあります。
また、事故当時学生だった場合には、アルバイトなどの収入があれば、請求できる可能性があります。
また、事故により就職が遅れてしまった場合、遅れた期間の休業損害が認められる可能性はあります。
(3)逸失利益の計算方法
交通事故にあい後遺障害が残ってしまったという場合、後遺障害の影響で、本来得られたはずの将来分の収入が失われてしまうことがあります。
これが「逸失利益」です。逸失利益では、基本的に67歳まで働けたという前提で計算します。
逸失利益の計算方法は、次のとおりです。
「労働能力喪失率」とは、後遺障害によって事故前と比べて、どのくらい働く能力が失われてしまったのかということです。
厚生労働省が、後遺障害等級によって労働能力喪失率の目安を定めていますが、後遺障害等級によって、必ず基準どおりの喪失率が認められるとは限りません。また、後遺障害等級どおりの喪失率が認められない後遺障害もあります。
「ライプニッツ係数」とは、将来分の収入が一時金で支払われることにより、被害者が将来の利益(利息など)を先に取得することになるため、その得られる利益を前もって控除するための数値です。
例えば、事故時40歳だった場合には、67歳まで働けることを前提に、27年間の労働能力を喪失したとして、27年のライプニッツ係数で計算します。
ライプニッツ係数は、2020年4月1日以降に発生した事故とそれ以前に発生した事故の場合で数値が異なりますので、注意が必要です。
2020年4月1日以降に発生した事故に関するライプニッツ係数は、次のサイトをご参照ください。
逸失利益の計算では、計算式にある「基礎収入」「労働能力喪失率」「ライプニッツ係数」の数字により、かなり金額に差が出てきます。したがって、保険会社の提案をうのみにせず、一つ一つ適切な数字となっていることを検討する必要があります。示談前に弁護士に相談して、交渉により金額を上げられる可能性があるのかどうか、意見を聞くようにしましょう。
(4)逸失利益の計算についてよくある質問
逸失利益の計算についてよくある質問と回答をご紹介します。
(4-1)休業損害と逸失利益は何が違うの?
休業損害は、けがが完治又は症状固定までの収入の減少を補償する話です。
他方、逸失利益は、症状固定後の後遺障害が残った場合の収入の減少を補償する話です。
どちらも、収入の減少を補償する話なのですが、対象としている時期が違うのです。
(4-2)基準どおりの労働能力喪失率が認められない後遺障害って?
後遺障害が残っても、一般的に「労働への支障」が生じない(生じたとしても程度が小さい)と考えられるものがあります。
例えば、醜状障害、歯牙欠損、嗅覚・味覚障害などが挙げられます。
このような後遺障害は、基準どおりの労働能力喪失率が認められないことがあります。
(4-3)67歳までの労働能力の喪失が認められない後遺障害があるの?
代表的なものは「むち打ち症」です。
局部に神経症状を残す後遺障害(12級13号・14級9号)は、時間の経過とともに症状が良くなることが多いことから、労働能力喪失期間は12級であれば10年以内、14級であれば5年以内に短縮されることが多いです。
(4-4)事故当時無職だと、逸失利益は認められない?
無職であっても、働く意欲があり、能力にも問題がなく、年齢や職歴などから、交通事故にあわなければ近い将来働いていたであろうという場合には、逸失利益が認められることもあります。
また、他人のために家事に従事していたような場合には、基本的には家事労働分の逸失利益が認められます。
逸失利益について詳しくはこちらをご覧ください。
【まとめ】自動車事故の被害にあうと休業損害や慰謝料などが請求できるが、基準は一律ではなく、弁護士に依頼すると増額する可能性がある
今回の記事のまとめは、次のとおりです。
- 交通事故の被害にあった場合、加害者に対して生じた損害の賠償を請求できる。
- けがをした場合の慰謝料は、「入通院慰謝料」と「後遺障害慰謝料」があるが、自賠責の基準と任意保険会社の基準と弁護士の基準がそれぞれ異なっている。
- 休業損害・逸失利益は、それぞれ交通事故により収入が減った分の損害賠償請求である。
- 慰謝料・休業損害・逸失利益はけがの程度や被害者の収入などによっては極めて高額になるため、加害者側の保険会社との意見が対立しがちである。
- 示談交渉を弁護士に依頼した場合には、最終的に受け取れる賠償金が増額する可能性がある。
交通事故の被害に遭った方が、賠償金請求をアディーレ法律事務所にご相談・ご依頼いただいた場合、原則として手出しする弁護士費用はありません。
すなわち、弁護士費用特約が利用できない方の場合、相談料0円、着手金0円、報酬は、獲得できた賠償金からいただくという成功報酬制です(途中解約の場合など一部例外はあります)。
また、弁護士費用特約を利用する方の場合、基本的に保険会社から弁護士費用が支払われますので、やはりお客様に手出しいただく弁護士費用は原則ありません。
※なお、法律相談は1名につき10万円程度、その他の弁護士費用は300万円を上限にするケースが多いです。弁護士費用が、この上限額を超えた場合の取り扱いについては、各弁護士事務所へご確認ください。
(以上につき、2023年2月時点)
交通事故の被害にあって賠償金請求のことでお悩みの場合は、アディーレ法律事務所にご相談ください。