「離婚したいが、もめたくない。」
円満な離婚を希望する人は多いです。
しかし、実際は、夫婦間で離婚条件が折り合わず、険悪な状態になってしまうことも少なくはありません。
そういう状況を周りで見ていると、「円満離婚なんて難しいのでは?」なんて思ってしまうかもしれません。
しかし、「円満離婚」は、決して難しいことではありません。
離婚をする前に、事前に準備をしておくことやポイントをおさえておくことが重要です。
「円満離婚」するためには、事前にどういう準備が必要なのか、どういうポイントを押さえておけばいいのか、弁護士が詳しく解説します。
慶應義塾大学卒。大手住宅設備機器メーカーの営業部門や法務部での勤務を経て司法試験合格。アディーレ法律事務所へ入所以来、不倫慰謝料事件、離婚事件を一貫して担当。ご相談者・ご依頼者に可能な限りわかりやすい説明を心掛けており、「身近な」法律事務所を実現すべく職務にまい進している。東京弁護士会所属。
そもそも「円満離婚」とは?
「円満離婚」とは、夫婦がもめることなく、互いに納得のいく形で離婚を成立させることをいいます。
「円満離婚」をするにあたっては、夫婦でもめないということはもちろん、どちらか一方に不満を残さないということが重要です。
どちらか一方に不満が残る形での離婚では、後々トラブルのもとになりかねません。
例えば、夫が養育費の額に納得していなければ、離婚後、夫が養育費を支払わない、などのトラブルに発展することがあります。
離婚後にお互いに禍根を残さないためにも、「円満離婚」が望ましいといえます。
「円満離婚」に向けておさえておきたい離婚の基礎知識
離婚には、一般的に、「協議離婚」、「調停離婚」、「審判離婚」、「裁判離婚」があります。
「協議離婚」とは、夫婦間だけの話し合いで離婚条件を決めて、離婚することをいいます。多くの夫婦が「協議離婚」によって離婚しています。
「調停離婚」、「審判離婚」、「裁判離婚」とは、裁判所において離婚条件をとりきめて、離婚することをいいます。離婚条件のとりきめに裁判所を介入させるという点で、「協議離婚」とは性質を異にします。
もっとも、「調停離婚」は、裁判所が介入したうえで、夫婦で話し合い、夫婦の互いが納得しない限り、離婚が成立しません。そのため、裁判所を介する手続きにはなりますが、夫婦で離婚条件などを話し合って、離婚するという点では「協議離婚」と同じです。
一方、「審判離婚」、「裁判離婚」は、夫婦が納得していなくても裁判官が離婚という判断を下せば、離婚が成立してしまいます。互いが納得いかない離婚条件が付されることもあります。
「円満離婚」は、互いが納得いく形での離婚であることが重要ですので、「協議離婚」であること、少なくとも「調停離婚」であることが必要です。
※なお、調停には、「円満調停」という調停がありますが、「円満調停」とは、裁判所を介して、夫婦仲を円満にし、離婚しないように話し合う手続きですので、「円満離婚」とは全く別物です。
円満離婚をするメリット
円満離婚をするメリットは以下のものが挙げられます。
- 短期間で離婚に至る可能性がある
- 離婚にかかる費用を抑えられる
- 夫婦が互いに納得のいく離婚条件を定めやすい
- 夫婦が離婚後も良好な関係でいられる可能性が高く、子どもへの影響が少ない
順番に説明します。
(1)短期間で離婚に至る可能性がある
「協議離婚」においては、夫婦で離婚条件を話し合って決め、離婚届を役所に提出すれば離婚は成立します。夫婦でもめることなく、円満な離婚をすることによって、短期間で離婚に至ることできます(なお、子どもがいたり、持ち家やローンがあったり、と決めることが多い場合には、「円満離婚」であっても、話合いに多くの時間を要します)。
夫婦間でもめて離婚条件の話し合いがまとまらないと、離婚に向けた話し合いは長期化してしまいます。
裁判所を介した「調停離婚」や「裁判離婚」をしたりすると、離婚に向けた話し合いはさらに長期化してしまう可能性があります。
例えば、「調停離婚」では、一般的に、1ヶ月に1回程度しか話し合いの場(調停)はもたれません。そのため、離婚に向けて調停をはじめてから離婚成立まで、長いと1年以上かかってしまうことも少なくありません。
(2)離婚にかかる費用が抑えられる
夫婦でもめることなく、話し合いによって、離婚することで、離婚にかかる費用を抑えることができます。
もし、離婚に向けた話し合いが夫婦間でまとまらず、「裁判離婚」や「調停離婚」になってしまった場合、まず、裁判所への手数料の支払いが必要になります。また、弁護士に依頼するのであれば、弁護士費用も当然、必要になります。
離婚によって、夫婦それぞれ新たな生活がはじまります。新たな生活のためにお金が必要な人もいるでしょう。少しでも離婚にかかる費用は抑えましょう。
(3)夫婦が互いに納得のいく離婚条件を定めやすい
夫婦でもめることなく、話し合いによって、離婚することで、互いに納得のいく離婚条件を定めやすくなります。
どちらか一方が納得していないまま離婚条件が定めてしまうと、のちに定めたことが実行されずに、後々の紛争のきっかけとなることもあります(養育費の不払いや子どもに勝手に会いに来てしまう、など)。
後々の紛争防止という観点からも、夫婦が互いに納得のいく離婚条件を定めることができるという点はメリットといえるでしょう。
(4)夫婦が離婚後も良好な関係でいられる可能性が高く、子どもへの影響が少ない
離婚後も夫婦が良好な関係でいることで、離婚によって精神的ストレスをかかえる子どもへの影響を少なくすることができます。
また、離婚に向けた話し合いの中でも、もめることなく話し合うことができれば、子どもに与える精神的ストレスを少なくすることができます。
いくら離婚するからとはいえ、子どもにとっては大切な母であり、父であるということに変わりありません。子どもにとって、両親が離婚するということは、大きな精神的ストレスとなります。
子どものことを考えるならば、子どもが離婚によって抱えるストレスを少しでも減らして、もめずに、円満に離婚することが一番です。
「円満離婚」に向けた心構え
「円満離婚」をしたいのであれば、これから説明する2つのことを心にとどめる必要があります。
- 円満な離婚を目指すあまりに離婚条件を妥協するのは、禁物
- 離婚条件について、配偶者の意思も尊重する
説明します。
(1)円満離婚を目指すあまりに離婚条件を妥協するのは、禁物
争いを避けて円満に離婚を成立させたいがために、離婚条件の取り決めを曖昧にしたり、納得がいっていないのに妥協したりするのはいけません。
離婚条件の取り決めを曖昧にしたり、納得がいっていないにもかかわらず妥協した取り決めをすることによって、後々の紛争の火種になったり、後悔したりする可能性が高いです。
特に、財産分与、慰謝料、養育費は、離婚後の生活の原資(お金)ともなりますので、妥協せずに、きっちり決めておかなければなりません。
(2)離婚条件について、配偶者の意思も尊重する
「円満離婚」をするためには、夫婦が互いに納得をして離婚に同意する必要があります。
あなたの思いや希望も当然わかりますが、夫婦が互いに納得するためには、配偶者の意思も尊重することが必要です。
離婚に向けた話し合いは、これまで婚姻生活の中で感じていたこと、ためていたことがあふれてきて、感情的になりがちです。
感情的に自己の思いや希望を相手にぶつけてしまうことで、ささいな争いを生み、円満に解決できるはずのことも出来なくなってしまいます。
あなたの意思だけでなく、配偶者の意思も尊重するということを心にとめておきましょう。
離婚を切り出す前にしておきたい、3つの準備

「円満離婚」に向けた話し合いをスムーズに行うにために、3つの準備が必要となります。
- 離婚問題に詳しい弁護士に相談する
- 離婚条件の交渉準備をする
- 離婚後の生活の目途をつける
(1)離婚問題に詳しい弁護士に相談する
離婚に向けてどういう準備が必要なのか、離婚手続きの流れについて、離婚問題に詳しい弁護士に相談しましょう。
離婚に必要な準備事項は人によって異なります、周りから見聞きした話があなたにも当てはまるとは限りません(子どもの有無や収入状況、財産状況、不貞行為の有無等)。
離婚に向けた話し合いをスムーズに行うために、話合いの前に、離婚に必要な準備事項や離婚手続きの全体像を把握しておく必要があります。
また、前もって弁護士に相談しておくことで、離婚が話し合いでまとまらず、もめることとなったとしても、その時点で弁護士を探さなくてすみます。
準備不足や対応漏れで後悔することのないように、別居や離婚の話を切り出す前の段階で、離婚問題に詳しい弁護士に相談しましょう。
(2)離婚条件の交渉準備をする
離婚条件の交渉にあたっては、2つの準備が必要になります。
(2-1)財産分与に備えて、配偶者が持っている財産を把握しておく
(2-2)交渉に有利な証拠を収集しておく
(2-1)財産分与に備えて、配偶者が持っている財産を把握しておく
離婚するにあたっては、婚姻期間中に夫婦が築いた財産を分配することになります。離婚の話し合いがはじまると、財産を隠す人も少なからずいるため、離婚条件を交渉する前に、配偶者名義の通帳、給与明細、確定申告書などから、配偶者が持っている財産を把握しておきましょう。
「財産分与」については、後で詳しく説明します。
(2-2)交渉を有利に進めるための証拠を収集しておく
配偶者の不貞、DV、ハラスメントなどが離婚の原因であるといった場合、離婚の話し合いを行う前にこれらの証拠を集めておくのがよいでしょう。
配偶者に不貞、DV、ハラスメントなどがあった場合、離婚条件を決める際に、こちらに有利にすすめることができる可能性があります。
さらに、配偶者に対して、慰謝料を請求できる可能性もあります。
離婚の話し合いとなると、配偶者が快く証拠を差し出してくれなくなったり、上記の行為があったことを認めてくれなくなったりすることも考えられます。
離婚の話し合いを有利に進めるためにも、離婚の話し合いを行う前に、証拠を集めておきましょう。
離婚時における慰謝料請求については、後で詳しく説明します。
詳しくこちらの記事もご確認ください。
(3)離婚後の生活の目処をつける
離婚後は、夫婦それぞれが自立して生活しなければなりません。
離婚に踏み切る前に、次の3点に関しては、目途をつけておく必要があるでしょう。
(3-1)経済的自立の目途
(3-2)住まいの目途
(3-3)離婚時に必要なお金の目途(弁護士費用、引っ越し費用など)
(3-1)経済的自立の目途
これまで夫婦で協力して生活していたものを、離婚後はそれぞれで生活していかなければなりません。特に、専業主婦であった人や専業主婦でなくても配偶者の収入に頼って生活をしていたという人は、経済的自立の目途をつけなければなりません。
確かに、配偶者から養育費や慰謝料がもらえるかもしれませんが、離婚に向けた話し合い次第では、あなたが期待しているよりも低い金額になる可能性もあります。
また、養育費がもらえたとしても、途中から支払いが滞ってしまうということも少なくありません。
特に、子どもがおり、親権を持ちたいと考えている方は、離婚後の子どもの生活はあなたが支えることになります。離婚に踏み切る前に、経済的自立の目途を立てましょう。
(3-2)住まいの目途
離婚したのであれば、夫婦別々に居住するということを考えている方も多いと思います。
しかし、離婚が決まった後に探そうとすると、転居先がなかなか見つからず、離婚しているにもかかわらず、仕方なく夫婦で同居を続けているという方も多くいらっしゃいます。
離婚後、夫婦で別居したいと考えている人は、離婚に踏み切る前に、住まいの目途は立てておきましょう。
子どもがいる場合は、子どもの学校や保育園を決めること、また、子どもが安心して育つことができる環境を整えることも考えなければなりません。子どもは急に環境が変わってしまうことに不安を覚えるかもしれません。子どものことも考えながら、住まいの目途を立てましょう。
(3-3)離婚時に必要なお金の目途
離婚に際しては、別居の際の引っ越し費用、転居先の家具家電費用など、お金がかかるものです。弁護士に依頼することになった場合、弁護士費用も必要になります。
離婚に踏み切る前に、少しでも多くのお金を貯めておきましょう。
離婚後に後悔しないために!代表的な5つの離婚条件
離婚で決めるべき、代表的な5つの離婚条件は、次のものになります。
- 財産分与
- 年金分割
- 慰謝料
- 親権、子の戸籍
- 養育費、面会交流
それぞれについて説明します。
(1)財産分与
「財産分与」とは、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産を、離婚時に清算し分配する制度のことをいいます(民法768条1項)。
夫婦の共同名義で購入した不動産、夫婦の共同生活に必要な家具や家財などが財産分与の対象となることはもちろん、夫婦の片方の名義となっている預貯金や車、有価証券、保険の解約返戻金、退職金など、婚姻中に夫婦が協力して取得した財産といえるものであれば、財産分与の対象となりえます。
詳しくはこちらの記事もご確認ください。
(2)年金分割
「年金分割」とは、離婚後に片方配偶者の年金保険料の納付実績の一部を分割し、それをもう片方の配偶者が受け取れるという制度です。
特に、熟年離婚の場合には、年金が離婚後の生活の原資となることが多いと思われますので、しっかり決めておかなければなりません。
(3)慰謝料
「慰謝料」とは、相手の加害行為によって生じた精神的苦痛を金銭に換算したもので、不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償として位置づけられます。
離婚の際には、例えば、配偶者の不貞行為、DV、ハラスメント行為などに対して、慰謝料を請求できます。
詳しくはこちらの記事もご確認ください。
(4)親権、子の戸籍
離婚後は、必ず父母のどちらかが単独親権者になります(民法819条)。
親権を得たいのであれば、離婚の話し合いに先立って、養育の実績を作っておくこと、また、子どもが育つにふさわしい環境を整えておくことをしましょう。
もし、争いになって、裁判所が親権を決めるということになれば、養育の実績の有無、子どもが育つにふさわしい環境といえるかなどによって、親権をどちらが持つかを決めることになります。
なお、婚姻によって氏を改めた親が親権者となり、子どもを自分の戸籍に入れたい場合には、家庭裁判所に対して、「子の氏の変更許可(民法791条)」を申立てて、子どもの氏を自分の氏と同じにする必要があります。
詳しくはこちらの記事もご確認ください。
(5)養育費、面会交流
子どもがいる場合、養育費や面会交流についても決める必要があります。
(5-1)養育費
「養育費」とは、衣食住の費用、教育費、医療費などの子どもの監護に必要な費用のこといい、定期的、継続的に支払っていくものです。
余裕があるときに支払えばいいというものではありません。
養育費金額の決定の参考としては、養育費算定表があります。
養育費算定表には、裁判所が作成したものと日本弁護士連合会が作成したものがありますが、養育費の話し合いの場においては、主に、裁判所の最新の算定表が利用されているようです。
詳しくはこちらの記事もご確認ください。
参考:平成30年司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証研究)の報告について|裁判所 – Courts in Japan
参考:養育費・婚姻費用の新算定表とQ&A|日本弁護士連合会
(5-2)面会交流
「面会交流」とは、父母の離婚により、子どもの監護者ではなく子どもと離れて暮らしている父または母が、定期的・継続的に子どもと交流することをいいます。
近年は、面会交流をできる限り認めることが、子どもの精神の健全な成長に望ましいという理解が一般的となっており、面会交流は親と子どもの双方の権利とも言ってもいいでしょう。
したがって、面会交流をすることが子の福祉に反するなどの例外的事情がある場合を除き、面会交流を認めるのが原則となっていますので、面会交流を拒否することは難しいでしょう。
なお、養育費を支払う側が「養育費を支払うなら子どもに会いたい」と希望することも多く、養育費の金額を決める際に、面会交流の条件も決めるということもあります。
参考:面会交流|法務省
詳しくはこちらの記事もご確認ください。
離婚協議書は、公正証書にしておこう
「公正証書」とは、中立公正な立場である公証人が作成する公文書のことをいい、公証役場という公の機関で作成されます。
そして、公正証書は、公証人や証人が立ち会いのもと作成されるため、離婚協議書を公正証書にしておくことで、離婚後に偽造や変造が疑われるリスクもありません。
また、公正証書原本は、公証役場で原則20年間保管されることが決められているため、紛失するリスクを防止することもできます。
養育費や慰謝料の支払いの合意と支払う側が強制執行を受諾した旨を公正証書に記載すると、支払いが履行されないときは、裁判所の判決を待つことなく、ただちに強制執行が可能になります。
つまり、もし離婚後養育費や慰謝料の支払いがなかったとしても、公正証書を作成しておけば、すぐに相手方の預金や給料を差し押さえることができるのです(公正証書がなければ、裁判を起こして、裁判所の判決が出て初めて、強制執行することになります)。
離婚協議書を公正証書にすることで、後々の紛争を防止することができます。
離婚後に平穏な生活を送るためにも、離婚協議書は、公正証書にしておきましょう。
参考:5 離婚|日本公証人連合会
参考:9 必要書類|日本公証人連合会
【まとめ】「円満に離婚を進めたい」とお悩みの方は弁護士にご相談ください
「円満離婚」することは、決して難しいことではありません。
最後に、円満に離婚するために、必要な準備、ポイントについて復習しましょう。
「円満離婚」に向けた心構え
- 円満な離婚を目指すあまりに離婚条件を妥協するのは、禁物
- 離婚条件について、配偶者の意思も尊重する
離婚を切り出す前にしておきたい、3つの準備
- 離婚問題に詳しい弁護士に相談する
- 離婚条件の交渉準備をする
- 離婚後の生活の目途をつける
離婚後に後悔しないために!代表的な5つの離婚条件
- 財産分与
- 年金分割
- 慰謝料
- 親権、子の戸籍
- 養育費、面会交流
離婚協議書は、公正証書にしておこう
「円満離婚」を成立させたい場合には、早くから、離婚準備や離婚手続きの全体像を把握し、交渉ポイントのアドバイスを得ておくことが重要です。早めに弁護士にご相談ください。