「借金を滞納していたら、給料を差し押さえられた…。『個人再生』をしたいけれど、個人再生をしたら給料の差押えはストップできる?」
確かに、裁判所から個人再生手続開始決定が出ると、給料の差押えをストップできる可能性があります。ですが、差押えがされた理由によっては、給料の差押えをストップできないこともあります。
個人再生により給料の差押えがストップするかどうかは、今後の生活について重要なことですから、正確に把握するようにしましょう。
この記事では、「個人再生と給与の差押え」について弁護士が解説します。
この記事を読んでわかること
- 個人再生の手続の概要
- 個人再生により給料の差押えを止められる債権と、止められない債権
- 個人再生により給料の差押えを止められる場合の流れ
- 個人再生により給料の差押えを止められない場合と対処法 など
早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。
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個人再生とは
個人再生とは、負債について返済が困難であることを裁判所に認めてもらい、法律に基づき決まった金額を原則3年間(場合によっては5年間)で分割して支払っていく手続です。
個人再生で支払うこととなる金額は、負債の額や財産価額等をもとに決まりますが、高価な財産がなければ総支払額を大幅に減らせる可能性があります。
個人再生の大きな特徴の一つに、条件を満たしていれば「住宅資金特別条項」を用いることで、住宅ローンの残った家を手放さずに済む可能性がある、というものがあります。
個人再生の流れとは?
個人再生をする場合、その手続の流れは、大まかに次のようになります。
個人再生の申立て
個人再生手続開始決定
再生計画認可決定
再生計画認可決定の確定
再生計画に沿った支払の開始
再生計画認可決定を得ることが、債務者にとっての裁判所での手続のゴールといえます。
個人再生手続開始決定で給料の差押えを中止できる場合・できない場合
裁判所の個人再生手続開始決定があると、基本的にはそれ以前になされた給料の差押えはいったんストップしますが、次のとおり、差押えの原因によっては、差押えをストップできません。
【借金を滞納したことによる差押えの場合】
借金の返済を滞納したために給料を差し押さえられ、その後、個人再生を申立てたという場合、基本的には、裁判所が個人再生手続開始決定を出せば、差押えをストップできます。
【養育費を滞納したことによる差押えの場合】
養育費を滞納したために給料を差し押さえられた場合、借金の場合と同様、基本的には裁判所が個人再生手続開始決定を出せば、差押えをストップできます。
【税金などを滞納したため『滞納処分』による差押えの場合】
他方、税金や国民年金保険料など公租公課を滞納して給料を差し押さえられた場合、個人再生手続開始決定があっても、差押えをストップすることはできません。
再生手続開始決定に伴う強制執行等の中止について、民事再生法では『再生債権』に基づく差押え等の強制執行の申立てはできなくなり、再生債権に基づき既に始まった強制執行は中止することとされています(民事再生法39条1項)。
つまり、再生手続開始決定で差押えをストップできるのは再生債権のみということになります。
再生債権とは、法律で次のように定義されています。
再生債務者に対し再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権(共益債権又は一般優先債権であるものを除く)
引用:民事再生法84条1項
そして、再生債権から除かれる共益債権、一般優先債権とは、法律で次のように定義されています。
- 共益債権
再生債権者全体の利益につながる請求権(民事再生法119条) - 一般優先債権
公租公課等、再生手続によらずに弁済を受けることのできる権利(民事再生法122条)
【借金等】個人再生により給料の差押えをストップする場合の3つの注意点
裁判所の個人再生手続開始決定により、基本的には給料の差押えはストップできますが、その際、次の3つの点に注意が必要です。
(1)個人再生手続開始決定はすぐに出るとは限らない
個人再生の申立てを行ってから、裁判所が個人再生手続開始決定を出すまでには時間がかかることがあります。
そのため、少しでも早く給料の差押えを中止したい場合には、個人再生の申立てをする際に、『強制執行の中止命令の申立て』(民事再生法26条1項2号)を併せて行います。
ただし、個人再生手続開始決定前に差押えの中止を認めるかどうかは、裁判所次第です。
ですから、個人再生手続開始決定までは給料の差押えをストップできない可能性があることに注意が必要です。
(2)個人再生をする裁判所と差押えをしている裁判所は別!
個人再生手続開始決定が出るか、その前に強制執行の中止命令を獲得すれば、その差押えは中止となります。
しかし、個人再生手続を進める裁判所と、給料差押えを命令した裁判所(執行裁判所といいます)とはそれぞれ別ですので、自動的に給料の差押えがストップするわけではありません。
給料の差押え中止の効果を得るためには、執行裁判所に伝える必要があります。
(3)差押えが「中止」したからといって、すぐに給料を満額受け取れるようになるわけではない
最後に、1番重要な点ですが、個人再生により、給料の差押えを中止することができると言っても、直ちに給料を満額受け取れるようになるわけではないという点に注意が必要です。
給料を満額受け取れるようになるのは、再生計画認可決定が確定したときからです。
え!それでは、中止とはいったい何なのですか?
『中止』とは、強制執行をいったんストップさせる意味はありますが、差押え自体の効力は否定されないのです。
具体的には、差し押さえられた分の給料は、強制執行の手続が『中止』されても、勤務先において債権者には渡さないというだけで、それ以降も強制執行手続が取り消されるまでは勤務先にストックされます(※供託されることもあります)ので、本人が受け取れるわけではないのです。
勤務先にストックされた、差押え分の給料は、どうなるのですか?
その後、個人再生手続が進み再生計画認可決定が出て確定すると、中止されていた差押えは効力を失い(民事再生法184条)、ストックされた分が本人に支払われることになります。
ですから、個人再生の申立てをする前に給料が差し押さえられた場合、給料を満額受け取れるようになるのは、個人再生の手続が全て終了した後、ということに注意が必要です。
給料の差押えと強制執行手続の中止
(4)民事再生による給料の差押えをストップする場合の流れ
これまでご説明した、民事再生による給料の差押えをストップするための流れをまとめると、次の図のとおりです。
【公租公課等】個人再生手続開始決定等では差押えをストップできない場合
一方、差押えの根拠となる債権が共益債権や一般優先債権の場合は、個人再生手続開始決定や、それに先立つ強制執行の中止命令による差押えの阻止ができません。
また、共益債権や一般優先債権は、そもそも個人再生の手続の対象となる「再生債権」ではないため、個人再生によって支払額を減らすこともできません。
この項目では、共益債権や一般優先債権があった場合の手続上のリスクや、それらの支払についての対処法を説明します。
(1)共益債権と一般優先債権
共益債権として、民事再生法は次のものを定めています。
一 再生債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権
引用:民事再生法119条各号
二 再生手続開始後の再生債務者の業務、生活並びに財産の管理及び処分に関する費用の請求権
三 再生計画の遂行に関する費用の請求権(再生手続終了後に生じたものを除く。)
四 第六十一条第一項(第六十三条、第七十八条及び第八十三条第一項において準用する場合を含む。)、第九十条の二第五項、第九十一条第一項、第百十二条、第百十七条第四項及び第二百二十三条第九項(第二百四十四条において準用する場合を含む。)の規定により支払うべき費用、報酬及び報償金の請求権
五 再生債務者財産に関し再生債務者等が再生手続開始後にした資金の借入れその他の行為によって生じた請求権
六 事務管理又は不当利得により再生手続開始後に再生債務者に対して生じた請求権
七 再生債務者のために支出すべきやむを得ない費用の請求権で、再生手続開始後に生じたもの(前各号に掲げるものを除く。)
一般優先債権は、次のものです。
一般の先取特権その他一般の優先権がある債権(共益債権であるものを除く。)
引用:民事再生法122条1項
例えば、次のような債権が該当します。
- 従業員への給料
- 葬式の費用
- 日用品の代金
- 公租公課 など
(2)公租公課の滞納があると、裁判所での手続がとん挫する可能性あり
一般優先債権や共益債権による差押えは、個人再生手続開始決定や、それに先立つ強制執行の中止命令で止めることはできません。
しかし、これらの債権をもとに強制執行が行われ、債務者の財産が減少してしまえば再生計画に支障が出かねません。
そこで、一般優先債権や共益債権についての強制執行等が、
・再生に著しい支障を及ぼし、かつ、
・再生債務者が他に換価の容易な財産を十分に有するときには、裁判所はその強制執行又は仮差押えの中止又は取消しを命ずることができるとされています(民事再生法121条3項、122条4項)(ただ、実際に裁判所が中止や取消しの命令を出した例はごく少ない数にとどまっています)。
しかし、公租公課の滞納による差押えは、裁判所を通じた「強制執行」ではなく、徴収職員等の職権による「滞納処分」としてなされます。
そのため、公租公課の滞納が原因の差押えは、個人再生の裁判所での手続によっても回避することができません。
そればかりでなく、滞納している公租公課の額があまりに大きければ、再生計画を履行できる可能性がないと判断され、再生手続の廃止決定が出て(民事再生法191条1号)、手続が途中でとん挫してしまう場合もあります。
(3)共益債権や一般優先債権への対処法
共益債権や一般優先債権は、個人再生手続でも差押えを回避できない可能性があり、支払負担も減らすことができません。特に税金の滞納は、多額になると再生手続自体に影響するおそれがあります。これらの債権がある場合には、個人再生について弁護士に相談する際に、これから先どのように支払っていくべきかご相談ください。
特に、公租公課の滞納の場合、民事上の債権以上に早期の差押えに至る可能性があるうえ、裁判所をもってしても差押えの中止や取消しはできません。
差押えリスクを下げ、個人再生の手続を円滑に進めるためには、役所の窓口に分納等のより負担の軽くなる納付の方法をご相談ください。
【まとめ】個人再生で給料の差押えをストップしても、差し押さえられた給料をすぐ受け取ることができるわけではない
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 個人再生とは、総支払額を大幅に減らせる可能性のある手続。裁判所での手続の流れは「個人再生手続の開始決定の申立て→個人再生手続開始決定→再生計画認可決定→再生計画に沿った支払の開始」のようになる。
- 個人再生手続開始決定か、個人再生の申立ての際に得た強制執行の中止命令によって、それまでに始まった差押えを中止し、以後の差押えを阻止することができる場合とできない場合がある。
- 借金等が原因の給料差押えは、個人再生手続開始決定が出ると中止できる。開始決定より前に強制執行の中止命令を獲得することでも中止できる。
- 個人再生による給料の差押えの中止の注意点は、次の3つ。
- 個人再生手続開始決定は申立後すぐに出るとは限らないため、場合によっては強制執行の中止命令を申立てる必要がある。
- 個人再生の手続を行う裁判所と執行裁判所は別。個人再生開始決定が出たら、その正本や執行停止の申立書を執行裁判所に提出する必要がある。
- 個人再生手続開始決定が出ても、すぐに給料の満額が受け取れるわけではない。差し押さえられた分の給料は職場でストック等され、再生計画認可決定が確定した後にならないと手元に入ってこない。
- 公租公課の滞納が原因の差押えは、個人再生の裁判所での手続によっても回避することができない。その他の一般優先債権や共益債権については、裁判所が再生手続への影響等を考えて差押えの中止・取消命令を出す可能性がないわけではないが、可能性はとても低い。
借金が原因で給料を差し押さえられた場合、個人再生により差押えをストップできますが、今回ご説明したとおり、ストップされた後もしばらくは給料を満額受け取ることはできません。
それだけに、個人再生を検討されている方は、給料などを差し押さえられる前に早めに借金問題に対応することが大切です。
給料を差し押さえられるということは、通常は、それ以前に貸主などから訴訟を起こされたり支払督促を申立てられていると思いますが、その時点で、まずは弁護士に相談されることをお勧めします。
アディーレ法律事務所では、個人再生手続を取り扱っています。ご依頼いただいた個人再生手続で、万が一再生不認可となってしまった場合、当該手続にあたってアディーレ法律事務所にお支払いいただいた弁護士費用は原則として、全額返金しております(2023年2月時点)。
個人再生を検討している方は、個人再生を得意とするアディーレ法律事務所にご相談ください。