「借金が返せない…、まさか自分が自己破産?…避ける方法はないのか…?」
「借金を滞納していることを相談したら、自己破産をすすめられた…
破産するとどんなデメリットが…」
借金で家計が回らなくなり始めると、大体の人は「自己破産だけはなんとか避けたい…」と考えることでしょう。
しかし自己破産という言葉は知っていても、漠然とマイナスイメージを持っているだけで、自己破産すると何が起こるのか、生活の中でどんな影響があるのか、きちんと知っている方は大変少ないです。特に自己破産は借金が無くなるというメリットの大きさのせいか、引き換えにとてつもないデメリットがあると思われているようで、様ざまな勘違いや誤解が飛び交っているようです。
例えばよく聞く誤解の一つに、「自己破産すると選挙権が無くなる」というものがありますが、自己破産は法律で認められている救済制度ですから、そのような国民を不平等に扱うデメリットはありえません。
今回は弁護士が、上記のように誤解されがちな自己破産のデメリットを、やさしく解説していきますね。
そもそも自己破産とは?簡単におさらい
自己破産とは?
一言で説明すると、現在の資産や今後の収入では、すべての債務の返済を続けていくことが不可能な場合に、返済が不可能であることを自分から裁判所に申し出て、最低限の生活に必要でない財産や、不動産などの高額な財産を差し出す代わりに、すべての債務の返済義務を法的になくす手続きです(後で記載しますが、税金や養育費など一部例外もあります)。
もう少し細かく説明をすると、自己破産の手続きは、
- 財産の調査・換価(お金に変えること)手続き
- 免責(すべての負債の返済義務を法的になくす)手続き
の2つに分かれています。つまり、財産をお金に変えて配当しても、返しきれなかった負債は返済義務をなくすための手続きをすることになります。
自己破産を利用できる場合と、できない場合
自己破産は、借金整理の最終手段です。現在お持ちの資産や今後の収入だけでは、すべての債務を返済することが不可能な状態の方が利用できます。例えば自宅を売れば借金の返済ができる場合や、任意整理をすれば十分に返済を続けていくことが可能な場合には、当然ですが自己破産はできません。また、自己破産の手続き中は就くことができない職種があります(制限職種といいます)。後ほど詳しく記載しますが、もし該当する職種に就いている場合は、手続きの間だけ一時的に辞めるなどの対応が必要です。辞めることができない場合などは、自己破産の利用は難しくなるため、民事再生(個人再生)の利用を検討することになるでしょう。
管財手続きと同時廃止手続き
自己破産には、管財手続きと同時廃止手続きの2つがあります。
原則は管財手続きであり、「破産管財人」という監督者のような立場の人を裁判所に選んでもらい、破産管財人の主導で財産の調査・換価、免責についての調査を行います。ほとんどの場合、この破産管財人には弁護士が選ばれ、報酬が発生します。その報酬は破産を利用したい申立人(あなた)が用意しなければならず、これを最低予納金と呼びます。
しかし、破産を検討されている方は、資産もなく、ご自身の収入では日々の生活も苦しいということも多く、最低予納金を準備できないというケースも多くあります。このような場合には、「同時廃止」手続きという、破産管財人が不要の手続きが例外的に認められることがあります。
また、個人の方が自己破産の手続きを、弁護士などの専門家に依頼して進めている場合は、破産管財人側の調査の仕事が少なくなるものとして、多くの裁判所において、最低予納金が安くなる少額管財制度が設けられています。少額管財では、最低予納金が20万円程度となっていることが多いです(具体的な金額は、裁判所や案件によります)。
しかし、財産が無く、最低予納金が用意できなくても、同時廃止ではなく管財手続きになるパターンが存在します。後ほど説明する免責不許可事由に該当し、その内容も悪質な場合に、本当に免責許可をあげても良いか、破産管財人が調査するというものです。これは「免責調査型」と呼ばれ、真剣に反省しているか、今後同じ過ちを繰り返さないかなどが調査され管財手続きとなります。
自己破産のメリット
自己破産のメリットは、なんと言ってもすべての債務の返済義務が法的に無くなることです。その代わりに、最低限の生活に必要ではない財産や、不動産などの高額な財産は手放さなければなりません。しかし、どの家にもあるような家具、家電、食器や衣服などの生活用品はほとんど全て維持することができます。こういったどの家にも普通にあるような物は、そもそも裁判所に申告する必要もないことが多いのです。自己破産は手続きが完了するまで時間がかかるため、その間の生活費も心配になりますが、自己破産手続き開始後の収入は、生活費に使えます。また、手続きが終わったあとは貯蓄をすることもできるのです。
自己破産をすると身ぐるみ剥がされ、住むところも無くなってしまう…こういった誤解をしている方がいらっしゃいますが、そうではなく、最低限の生活を保ち、自殺などを食い止めるために自己破産制度があるのです。
自己破産のデメリット、よくある7つの誤解
自己破産することに、とても恐怖心を持っていらっしゃる方が多くいらっしゃいます。それは、ネットに溢れているウソなどから誤解をしてしまっているからではと思います。
自己破産のデメリット、よくある7つの誤解 1. 会社を必ずクビになってしまう
基本的に自己破産をしたことは、解雇の正当な理由になりませんから、クビになることはありません。そもそも、金融機関に勤めていたり、会社から借金をしていたりするなどの例外を除き、会社に自己破産したことがバレてしまうことはほとんどないでしょう。もし転職する場合であっても、破産歴を申告する義務もありません。
ただし、自己破産の手続きには、先ほども出てきた制限職種があります。この場合、自己破産の手続き中は一時的に辞めていただくか、資格を使わずに仕事をしていただく必要があるので注意してください。
自己破産のデメリット、よくある7つの誤解 2. 自己破産のことが戸籍に載ってしまう
自己破産をしても、戸籍に記載されるということはありません。なお、制限職種の関係で、本籍地の市町村役場の破産者名簿に名前などの情報が載りますが、一般公開されているものではないので、ここから破産のことが知られる心配はありません。
自己破産のデメリット、よくある7つの誤解 3. 自己破産した後に結婚した場合、結婚相手もカードが使えなくなる
自己破産手続きをした場合、信用情報機関に事故情報が登録される(いわゆるブラックリストに載る)関係で、しばらくクレジットカードが使えなくなります。この信用情報機関への事故情報の登録は、個人単位でされるため、夫婦であっても影響が出ることは基本的にはありません。あなたが自己破産したことで、結婚相手や家族のカードに影響はありませんので、ご安心ください。
自己破産のデメリット、よくある7つの誤解 4. 選挙権を失ってしまう
選挙権は、憲法によって保障された国民の重要な権利です。自己破産したことで、選挙権に影響が出ることはありません。
自己破産のデメリット、よくある7つの誤解 5. 海外に行けない、日本から出られなくなる
自己破産をしても、パスポートが没収されたり、作れなくなったりすることはありません。破産手続き終了後は、海外旅行・出張も自由です。ただし、破産管財人が就いている間は、旅行・出張に行く場合は、裁判所の事前許可が必要となります(本当に必要なものであれば許可は出ますのでご安心ください)。
自己破産のデメリット、よくある7つの誤解 6. 賃貸住宅や携帯電話などが契約できなくなる
自己破産をしたことを理由に、賃貸住宅の契約ができなくなることは基本的にありません。ただし、信用情報機関に事故情報が登録されている間は、保証会社の審査に通らないことがあります。しかしこれは賃貸住宅の契約そのものが制限されているわけではないので、しばらくは保証会社を使わないで済む物件を探すようにしましょう。また、破産手続きで、携帯電話会社に介入(携帯料金の滞納があった場合など)した場合、その携帯電話会社では契約ができない場合があります。また、高額な携帯端末本体を分割払いで購入しようとした場合などは、審査が入り、信用情報機関に事故情報が登録されていることによって分割払いができないということがありえます。プリペイド式携帯電話を利用したり、安い端末を一括で購入したりするなどしてください。そもそも破産手続き中なのに、高価な機種なんて買っている場合ではありませんよね。
自己破産のデメリット、よくある7つの誤解 7. 年金や生活保護の対象から外される
老齢年金、障害者年金などの年金受給に自己破産が影響することはありません。
また、自己破産をしたことを理由に生活保護を受けられなくなることもありません。ただし、生活保護受給中に、役所(ケースワーカー)に無断で借入れをしていた場合、ごく稀に影響が出ることがあります。このようなケースは弁護士などの専門家にきちんと相談をした方が良いでしょう。
自己破産の本当のデメリット
一定期間、借入が出来なくなる(メリットとして捉えることもできる)
自己破産をすると、信用情報機関に事故情報が登録されます。信用情報機関とは、消費者金融、クレジットカード会社、銀行などの金融機関が業界ごとにつくっているデータベースです。このデータベースに、自己破産をした情報が登録されることで、審査が通らないということが起こります。これが俗に「ブラックリストに載る」とか、「ブラックになる」と呼ばれる状態です。信用情報機関に事故情報が登録されている関係で、自己破産からしばらくの間(一般的には7〜10年間)は、借入れが難しくなります。
ただ、自己破産をするということは、今後は借金に頼ることのない生活をスタートさせるということですから、しばらくの間、半ば強制的に借金ができないということは良いことだととらえることもできるでしょう。
自宅や車が維持できない可能性がある
まず、ローンの残っているご自宅などの不動産や車(自動車)は、担保にとられていることが多いため、自己破産手続きをしようとすると担保権を実行されて、維持できないことが多いです。
ローンが残っていない場合に、不動産などの高額な財産は、破産管財人による処分の対象となります。不動産は原則として処分対象ですが、親族に買い取ってもらうなどして、住み続けることができる場合もあります。
車については、資産価値が低い場合は、処分するよりもこのまま乗ってもらった方が有意義であるとして、維持できることも多くあります。裁判所にもよりますが、査定の結果、20万円未満であれば維持できることが多いと言われています。また、親族に買い取ってもらったりして維持することができることもあります。
手続が終るまで、就いてはいけない職業がある
前述したように、制限職種といって、自己破産の手続中、就くことができない職業が法律上存在します。具体的には、警備員、生命保険募集人、古物商(ディスカウントストアの責任者など)、宅地建物取引士などです。制限職種の職業にすでについている場合、自己破産の手続き中は一時的に辞めていただくか、資格を使わずに仕事をしていただく必要があります。また、会社の役員(取締役)は、破産手続きが裁判所で開始した瞬間、法律上強制的に解任されますので、役員を続ける場合は、すぐに再任していただく必要があります。
官報に掲載される
自己破産手続きを行うと、官報に名前や住所などが掲載されます。官報は、国が発行する新聞のようなものとよく言われますが、普通の新聞とは違い、普通の本屋やコンビニなどでは販売しておらず、裁判所併設の本屋などの官報販売所で販売しています。一般の方で官報を購読している方はほとんどいないので、官報の掲載を理由に自己破産したことが周囲に知られることはほとんど無いのではないでしょうか。
官報に掲載される理由は、漏れている債権者がいないかの確認のためなどなので、金融機関ではチェックされていることが多いです。
保証人がついている借金がある場合は、保証人に影響が出る
債務に保証人がついている場合、債権者(金融機関)は保証人に対して返済を求めることになります。債権者は、借主が返済できなくなったときに備えて保証人を確保しているのですから、保証人へ請求しないようにさせることはほぼ不可能です。
自己破産のデメリット以外に注意点は?
罰金や税金などは無くならない
自己破産し、無事に免責許可が出ても、あらゆる債務の返済義務がなくなるわけではありません。具体的には、刑事罰の罰金や税金、公的年金、国民健康保険料などの、国や自治体に納める債務の多くはなくならないので、注意してください。
この他、養育費などの扶養義務に関する債務もなくなりません。交通事故の人身の損害賠償債務、犯罪被害者への弁償債務もなくならないことが一般的です。
免責(支払い義務が免除されること)が認められないことがある
自己破産手続きをしても、全員必ず免責許可をもらえるわけでないことを理解しておきましょう。法律上、「免責不許可事由」というものが定められていて、これに該当する場合は、いったん免責許可を出して良いか検討する状態に置かれます。
例えば、パチンコや競馬などのギャンブル、株やFXなどの投資、旅行や高級品購入などの浪費があった場合が該当します。ただし、これらの事情があるからと言って絶対に必ず許可が出ないというわけではありません。使った金額、負債額、反省の度合い、債権者から異議が出ていないか、などさまざまな事情を総合的に考慮して、裁判所の裁量で免責許可がもらえることが多いです。ですから、自分が免責不許可事由に該当するといって、すぐに諦める必要はありません。もっとも、例えば大きな財産を隠した、裁判所や管財人に虚偽の説明をしたなどの事情があると、免責許可をもらうのはぐっと厳しくなります。
また、7年以内にすでに破産して免責許可をもらった方は、原則として再度の免責許可は出ません。もっとも、借金の理由が医療費など、やむを得ない事情がある場合には例外的に再度の免責をもらえることもありますので、諦めずに弁護士などによくご相談ください。
自己破産はそもそも悪い制度ではない!
自己破産の制度としての意義
自己破産をすることについて、漠然と負のイメージを持たれている方も多いでしょう。しかし自己破産は、国会で定めた破産法という法律によって認められた制度です。破産法には、この法律の目的の1つとして、経済生活の再生の機会の確保を図ると書かれています。残念ながら、借金苦を理由に、自ら命を絶ってしまう方もいらっしゃいます。このような方を救うため、法律で認められている制度として自己破産があるのです。本当に経済的に困っている方々には、ためらわず利用していただきたい制度なのです。
自己破産を検討する前に確認しよう
「支払不能」の状態にならないと、そもそも自己破産は出来ません
自己破産は、借金整理の最終手段であり、現在の資産や今後の収入では、すべての債務の返済を続けていくことが不可能でなければ利用できません。これを法律用語で「支払不能」と言います。普通に約束通り返済できる場合や、任意整理で十分に返済していくことができる場合には、自己破産は利用できませんので注意が必要です。少し頑張れば払えるけど払いたくないから破産する、ということはできないのです。
他の債務整理の方法は検討しましたか?
そもそも借金を減らす方法は自己破産だけではありません。もしお困りならば、弁護士などの専門家にまずは相談して、あなたの状況に最適な解決方法を提案してもらいましょう。もし自己破産が利用できない場合に該当しても、任意整理や民事再生(個人再生)という別の債務整理の方法もあります。
過払い金が発生していないか、確認を忘れずに!
また、長い間借金をしている方の中には、過払金が発生している方も多くいらっしゃいます。過払金の清算・回収によって、破産しなくて済むこともあるので、借入期間が長いのに調査したことが無いという方は、一度調査することをお勧めします。調査までは無料で行ってくれる専門家も多くいます。もちろんアディーレも無料で調査します。お気軽にご連絡ください。
自己破産のデメリットまとめ
今回の記事で、実際に自己破産するとどのようなデメリットがあるか、きちんとご理解いただけましたでしょうか?
自己破産は「人生の終わり…」というイメージを持たれている方が多いですが、制度を利用した後の人生にずっと影響を及ぼすようなデメリットはありません。そもそも自己破産は借金で苦しむ方々を救済するために、国よって設けられた「人生を再スタートする」ための制度なのです。借金を返さないことについて様ざまな葛藤があるかもしれませんが、制度を利用すること自体はけっして後ろ暗いものではないことを理解しておきましょう。
お金に関する悩みは、本当に精神的な負担が大きいですし、返済のために働きづめで肉体的にも負荷がかかることも多いです。もし借金の返済について深刻にお悩みの方は、自己破産やその他の債務整理について専門家に相談してみてはいかがでしょうか。弁護士が今の生活を変える糸口を知っているかもしれません。
この記事の監修弁護士
早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2010年弁護士登録。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。東京弁護士会所属。