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偏頗(へんぱ)行為とは?自己破産における扱いと否認について解説

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今回採り上げる法律相談はこちら。

(弁護士から自己破産相当であるとアドバイスを受け……)私の状況だと自己破産が相当なのはわかりました。ただ、お金を借りているところすべてに受任通知を送るとなると、4ヶ月前に50万円を借りて、給与から毎月天引きされている今の勤務先にも受任通知を送るってことですよね。破産することがわかる……。なんとかならないんでしょうか。
あと、私が勤めているのは小さな町工場なので自己破産の手続きとか全然わからないと思うんですが、もし給与天引きが止まらなかったらどうなりますか。

自己破産や個人再生では、すべての債権者(借入先)に対して受任通知を送るのが通常です。勤務先も例外ではないため、自己破産をする以上、受任通知を送ることになります。ただし、自己破産をするからといって仕事をクビになることはないので、安心してください。

今回は、給与天引きが止まらなかった場合、つまり「偏頗(へんぱ)行為」をしてしまった場合の流れについて弁護士が解説します。

偏頗(へんぱ)行為とは特定の債権者に担保を供与したり弁済したりすること

自己破産を進めるうえで、とても大切なルールが「債権者平等の原則」です。
「債権者平等の原則」とは、債権者が複数いる場合には、すべての債権者を平等に扱わなければならないという原則のことです。支払不能の状態になったら、すべての債権者に対する支払いを一律にストップしなければなりません(滞納した税金など非免責債権や家賃など生活に必要最低限のものを除きます)。
そのため、消費者金融や銀行に対する支払いをストップしておきながら、勤務先や友人・親族に対してのみ返済することは許されません。

1人の債権者が債務者から個別に借金を回収したなら、他の債権者が借金を回収しようとしたときには、債務者には財産が残っていないという事態が発生するでしょう。
そのような事態は、債権者全員にとって決して望ましいことではないため、債権者平等のルールを設け、自己破産の手続では、債権者に「個別にお金を回収しないでください」と重い負担を強いているのです。

債権者は、弁護士からの受任通知を受け取ることによって、その債務者が自己破産することを知ることになります。そのため、弁護士は、自己破産の依頼を受けた時点で、全債権者に受任通知を送るのが通常です。自己破産手続きを受任した受任通知が勤務先に送られると、勤務先はその従業員が多額の借金を抱えていることを知ってしまいます(勤務先からの借金だけで自己破産をする場合には、すでに勤務先は多額の借金を知っているため、新たに知ることはありません)。
もっとも、借金を知られたからといって解雇される心配はありません。

受任通知を受け取った債権者は、自己破産が申立てられる前とはいえ、その債務者からお金を回収することを差し控えるのが一般的です。そのため、本来であれば給与天引きも止められるはずです。
ところが、実際には受任通知を受け取ったのに給与天引きが止まらないケースもあります。

冒頭の事例に、このような続きがあったとしましょう。

先生!3ヶ月前に先生に受任通知を送っていただいたのに、給与天引きが止まらなくて、私から社長にお願いしてもよく理解してもらえなくて、結局3ヶ月分給与天引きされてしまいました。全部で6万円です……。どうなるんですか……。

すでに給与天引きされてしまったものは、これからご説明する「否認権」が問題になります。

偏頗(へんぱ)行為に関わる否認権とは?

破産手続きでは、破産管財人が破産者の財産を処分してお金に換えて債権者に配当します。
もし本来あるべきものが破産者の財産として存在しなければ、管財人は回収も担当します。

(1)偏頗(へんぱ)行為否認

偏頗行為否認とは、破産者による偏頗行為の効力を否認することです。

否認の対象となる偏頗行為は、次の3つの条件を満たすものです。

  1. 特定の債権者への返済等であること
  2. 支払不能になった後または破産手続申立てがあった後の行為であること
  3. 債権者(受益者)が債務者の支払不能状態などを知っていたこと

弁護士に自己破産を依頼して各債権者に対して受任通知を発送することを「支払停止」といい、支払停止があると「支払不能」になったものと推定されます(破産法162条3項)。

今回のケースでいえば、債権者である勤務先は受任通知を受け取り、支払不能を知っていたはずなのに、受任通知を受け取った後に6万円の返済を受けています。その結果、勤務先以外の債権者にはその分自分への配当が少なくなるという損害が生じています。そのため、破産管財人は、勤務先に対する弁済の効力を“否認”して、勤務先から6万円を取り戻すことができるのです。

もっとも、実際には「勤務先に迷惑をかけると後々の業績に関わるかもしれない」との理由で、自ら偏頗行為分を破産管財人に支払い、取戻しを免れることもあります。
いずれにしても、自己破産を弁護士に依頼した後で特定の債権者に返済すると、事態がややこしくなるので、やめましょう。給与天引きをされているならば、場合によっては弁護士の力を借り、受任通知送付の経緯とともに、勤務先に給与天引きを止めてほしいと伝えてください。

(2)詐害行為否認

破産管財人には、偏頗行為のほかに、詐害行為を否認する権利も認められています。
詐害行為否認とは、債権者を害する破産財団(破産者の財産)の減少行為を否認することです。
たとえば、無償または不当に安い値段で、住宅や自動車を友人や家族に渡す行為です。

偏頗(へんぱ)行為否認の対象となる2つの類型と例外

偏頗行為として否認される対象をもう少し詳しくみていきましょう。
偏頗行為否認の対象となる類型は以下の2つです。

(1)破産者が支払不能になった後、または破産手続開始の申立てがあった後にした偏頗行為

債権者平等の原則が強く要請されるのは、支払不能に陥ったときです。
支払不能とは、支払能力がないために弁済期にある債務を継続的に弁済できない状態です。
とりわけ裁判所に自己破産の申立てをした後の偏頗行為は厳格に取り締まる必要があります。

今回のケースでは、弁護士に自己破産を依頼した後の給与天引き(偏頗行為)が問題です。
弁護士に自己破産を依頼した時点で支払不能であった可能性が高いため、給与天引きは「破産者が支払不能になった後の偏頗行為」と指摘されてしまうでしょう。

(2)破産者の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しない偏頗行為

支払不能になる前でも例外的に否認権が行使されることがあります。
それが破産法162条1項2号に規定されているケースです。

破産者の義務に属せず,又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって,支払不能になる前三十日以内にされたもの。ただし,債権者がその行為の当時他の破産債権者を害する事実を知らなかったときは,この限りでない。

引用:破産法162条1項2号

支払う必要もないのに支払ったのであれば、他の債権者を害する程度が大きいので、支払不能になる30日以内の行為に限ってその効力を否定するというわけです。

偏頗(へんぱ)行為否認の対象となる「行為」にはどのようなものがある?

偏頗行為否認の対象となる行為は、以下の2つです。

(1)既存の債務についてされた担保の供与

既存の債務とは、偏頗行為をする時点において、既に存在している債務のことです。将来的に負担する予定の債務が対象となっている場合は、偏頗行為否認の対象になりません。
担保の供与とは、自身の財産に抵当権や質権、譲渡担保権など担保権を設定することです。

(2)既存の債務についてされた債務の消滅に関する行為

債務の消滅に関する行為とは、債務が消滅する法的効果をもたらす行為のことです。
お金を支払う行為(弁済)が典型例でしょう。

偏頗(へんぱ)行為はバレる?隠し通すことはできる?

偏頗行為は、免責不許可事由(破産法252条1項3号)にあたる可能性があるため、裁判所に正直に申告しなければなりません。「バレないだろう」と思って申告せずにいると、いざ裁判所に発覚したときに自己破産手続きがとん挫し破産予納金や弁護士費用が無駄になりかねません。

どのように偏頗行為がバレるのかをみてみましょう。

(1)自己破産の申立と添付書類

自己破産を申立てるにあたっては、手持ち財産のわかる書類を裁判所に提出します。
代表的なものをご紹介します。必要に応じて、これら以外の資料も求められます。

  • 過去1年間または2年間の通帳の履歴(すべての保有口座)
  • 給与明細、賞与明細
  • 源泉徴収票
  • 保険証券、解約返戻金のわかる資料

地方や事案によっては、同居人の資料も提出を求められることがあります。

まず、自己破産の申立て直近の給与明細に「返済」等と記されていれば、会社に対して支払いをしたことが発覚します。
また、過去に給与天引きがされていた場合、裁判所から直近の給与明細だけでなく過去の給与明細も提出するように求められることがあります。そうなると、いつからいつまでの期間、いくら給与天引きされたかが明らかになり、申立書の記載が不十分であると裁判所から(弁護士を通じて)事情を聴かれることになります。
そのほか、通帳の履歴上説明のつかない送金があると裁判所に「偏頗行為ではないか」と疑われてしまうことになります。

(2)破産管財人による調査

偏頗行為が疑われると、同時廃止手続きではなく、(少額)管財事件として処理されます。
(少額)管財手続きでは、自己破産を申立てた後免責が確定するまで郵便物が破産管財人の事務所へと転送されます(破産法81条、82条1項)。
郵送物のチェックをしている中で、偏頗行為が発覚するケースは多くあります。

【まとめ】自己破産に関するご相談はアディーレ法律事務所へ

自己破産を弁護士に依頼する段階まで来たなら、特定の債権者にまとめて返済してはいけません。遅くとも、弁護士から受任通知を送って以降、勤務先や友人・家族などを含めて、特定の誰かにお金を支払うと、偏頗行為となってしまうので、やめてください。
偏頗行為は、自己破産手続きを進めるうえで必ず発覚します。発覚した場合には、その取引の効力を否定されるか、偏頗行為と同額の積み立てを求められてしまうことになります。悪質だと判断されると、裁判所に借金の返済義務を免除してもらえないリスクもあります。
借金でお困りならば、アディーレ法律事務所にお気軽にご相談ください。

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