本来受け取るはずでない人が受け取ったお金、それを「不当利得(ふとうりとく)」といいます。
たとえば、次のようなケースを想定してみましょう。
孫からお小遣い50万円を振り込んで欲しいと頼まれた(仮称)Aさんは、孫から電話で聞いた口座に入金しました。
しかし、数日後、孫から「入金されていない」と連絡がありました。確認してみると、Aさんは全く見知らぬ(仮称)Bさんの口座に50万円を入金してしまっていたのです(誤振込)。慌てて銀行に連絡しましたが、しばらくして銀行から「お相手が返金を拒否されているため、返金できない」と回答が……。Aさんは泣き寝入りするしかないのでしょうか。
かわいい孫のために50万円もの大金を送金したAさん。一方、棚から牡丹餅というのがふさわしい状況で50万円もの大金を得たBさん。もしAさんが泣き寝入りするしかないとしたら、あまりに不公平でしょう。そこでAさんのような人の損害を回復させるために登場するのが、「不当利得返還請求権」です。
この記事では、次のことについて弁護士が解説します。
- 不当利得とは
- 不当利得の返還請求をするための要件
- 不当利得返還請求の仕方
- 不当利得返還請求の消滅時効
早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。
債務整理に関するご相談は何度でも無料!
費用の不安を安心に。気軽に相談!3つのお約束をご用意
国内65拠点以上(※1)
ご相談・ご依頼は、安心の全国対応
不当利得とは法的に正当化されない利益
不当利得とは、法律上受け取る権利がないにもかかわらず、他人の財産又は労務によって受けた利益のことです。
民法703条では、不当利得について、次のとおり規定されています。
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
引用:民法703条
不当利得の代表例
代表的な不当利得の事例をいくつかご紹介しましょう。
(1-1)過払い金請求
昭和の時代から消費者金融からお金を借り続けている(仮称)Cさん。2006年ころまで29.2%もの違法な高金利で返済を続け、途中から18%の利率に変わったものの、いまだに借金があります。Cさんは、借金の返済の負担が軽くならないかなと考えています。
消費者金融は、2006年ころまで利息制限法の上限を超える利率でお金を貸していました。
利息制限法の上限を超えて払い過ぎた利息は、Cさんの財産によって消費者金融が受けた利益であり、消費者金融が受け取る権利をもたない「不当利得」なので、返してもらえます。
これが不当利得に基づく「過払い金請求」の仕組みです。
(1-2)不正な使い込み
(仮称)Dさんは、義理の父親とともに暮らしており、義理の父親から通帳や印鑑を預かっています。あるときDさんは、出来心で会社のお金に手を付けてしまいました。それが会社にバレて弁償を求められたDさんは、義理の父親の通帳からお金を引き出し、義理の父親に無断で、会社への弁償のために使いました。Dさんは義理の父親から使い込んだ分のお金を返済するように求められました。
義理の父親はDさんに通帳や印鑑を預けていたとはいえ、Dさんが手を付けたお金の弁償のために自分の財産を使うことまで許したとはいえません。義理の父親がDさんに対して返還請求をする根拠が不当利得です。
(1-3)ネットショッピングで契約を解除した際の処理
(仮称)Eさんがネットショッピングで折り畳み傘を注文したところ、届いたのは骨の折れた不良品の傘でした。Eさんは、ネットショップに連絡して契約を解除するとともに折り畳み傘を返品しました。Eさんは、代金を返してほしいと思っています。
Eさんは債務不履行を理由に売買契約を解除したので、契約の相手方は代金を受け取ったままにしておく理由がありません。不当利得に基づき返してもらうことができます。
不当利得の返還を要求する権利
では、具体的にどのような場合に不当利得返還請求をできるのかをみてみましょう。
不当利得返還請求権の4つの要件
不当利得返還請求をするためには、次の4つの要件を満たすことが必要です。
- 他人の財産または労務によって利益を受けること
- 他人に損失を及ぼしたこと
- 1.の利益と2.の損失との間に因果関係があること
- 1.の利益に法律上の原因がないこと
では、冒頭のケースで、具体的にどの事情がどの要件を満たしているのかをみてみましょう。
孫からお小遣い50万円を振り込んで欲しいと頼まれたAさんは、孫から電話で聞いた口座に入金しました。
しかし、数日後、孫から「入金されていない」と連絡がありました。確認してみると、Aさんは全く見知らぬBさんの口座に50万円を入金してしまっていたのです。慌てて銀行に連絡しましたが、しばらくして銀行から「お相手が返金を拒否されているため、返金できない」と回答が……。Aさんは泣き寝入りするしかないのでしょうか。
Bさんは50万円の利益を得ている(要件1)一方、Aさんには50万円の損失があります(要件2)。
Aさんが50万円を誤って送金した“ために”Bさんは50万円を得ることができたので、利益と損失との間には因果関係があります(要件3)。
Bさんが50万円を得たのはAさんのミスが原因なので、法律上の原因はありません(要件4)。
したがって、冒頭のケースでは、4つの要件を全て満たしていますので、AさんはBさんに対して、不当利得返還請求ができます。
不当利得返還請求をする方法
では、不当利得返還請求をする方法について詳しくみていきましょう。
過払い金など取り戻したいものがある方は要チェックです。
(1)相手が不当利得を得た証拠を集める
相手に不当利得返還請求をする場合、ご説明した4つの要件について、何らかの客観的な証拠が必要となります。
先ほどのケースでどのような証拠があるのかをみていきましょう。
(1-1)過払い金請求
昭和の時代から消費者金融からお金を借り続けているCさん。2006年ころまで29.2%もの違法な高金利で返済を続け、途中から18%の利率に変わったものの、いまだに借金があります。Cさんは、借金の返済の負担が軽くならないかなと考えています。
過払い金請求において有力な証拠となるのは、利率や返済履歴を記した取引履歴です。
取引履歴はどうやって入手したら良いのですか?
お金を借りていた消費者金融等から取り寄せることができます。
相手が開示に応じない、取引履歴の見方が分からない、そもそもどこから借金をしていたか忘れてしまった…、などご自身で対応することが難しければ、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
(1-2)不正な使い込み
Dさんは、義理の父親とともに暮らしており、通帳や印鑑を預かっています。あるときDさんは会社のお金に手を付けたことが会社にバレて弁償を求められました。困ったDさんは義理の父親の通帳からお金を引き出し、義理の父親に無断で、会社への弁償のために使いました。Dさんは義理の父親から使い込んだ分のお金を返済するように求められました。
Dさんが義理の父親の通帳からお金を引き出したことを示す通帳の履歴が必要です。通帳がなければ、銀行から口座の取引履歴を取り寄せます。
また、Dさんがそのお金を会社への弁償に使ったこと(=自分のために使ったこと)を示す証拠として、Dさんの職場の上司などから話を聞けるとよいでしょう。
(2)弁護士に相談する
自分で不当利得返還請求をするのは大変なので、弁護士に相談することをおすすめします。
冒頭の誤振込のケースなど、そもそも相手の特定が難しいこともあります。
弁護士であれば、「弁護士照会」などによって相手を特定できる可能性があります。
弁護士に相談すると、必要な証拠に関するアドバイスや事案の見通しについて説明を受けることができます。
また、相手と話し合う際に窓口になってもらい、冷静な交渉が可能となります。
さらに将来的に裁判へと進む場合でも、引き続き対応してもらえる場合があります。
ただし、交渉から裁判へ移行するタイミングで弁護士費用が改めて必要になることもあるので、最初にどこまで弁護士に任せるのかや弁護士費用についてよく相談して確認しておきましょう。
(3)裁判所へ訴訟を提起する
相手が交渉に応じようとしない場合には、地方裁判所や簡易裁判所(※請求する金額によって異なります)に民事訴訟を提起することができます。裁判をすることが最適なのかどうかは事前に弁護士と相談してください。請求金額や相手方の資力によっては費用倒れになるかもしれません。
不当利得返還請求には時効がある
不当利得返還請求権には時効があるため、いつまでも請求できるものではありません。
時効を迎えてしまうと、「時効を援用する」と言った相手方に対し、請求できなくなってしまいます。そこで、時効で権利が消滅する前に請求する必要があります。
民法改正により、2020年4月1日以降、時効は次の2つの基準によって判断され、いずれか早いほうで時効期間が満了します。
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
引用:民法166条1項
1.債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
2.権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
※ただし、2020年3月31日以前に発生した債権の場合は、上記新民法ではなく、改正前の民法が適用されますので時効の期間が異なります。例えば、2020年3月31日までに完済した過払い金返還請求権の場合、旧民法が適用され、時効は完済したときから10年となるのが原則です。
改正についての経過措置で例外も設けられています。
判断が難しい場合もありますので、詳しくは弁護士などの専門家にお尋ねください。
時効について詳しくはこちらの記事もご参照ください。
冒頭の誤振込のケースで、時効について詳しくみてみましょう。
孫からお小遣い50万円を振り込んで欲しいと頼まれたAさんは、2020年7月1日、孫から電話で聞いた口座に入金しました。しかし、数日後、孫から「入金されていない」と連絡がありました。確認してみると、Aさんは全く見知らぬBさんの口座に50万円を入金してしまっていたのです。慌てて銀行に連絡しましたが、しばらくして銀行から「お相手が返金を拒否されているため、返金できない」と回答が……。Aさんは泣き寝入りするしかないのでしょうか。
(1)権利を行使できることを知った時から5年
権利を行使することができると知ったのは、Aさんが誤振込に気づいた時点です。
それが2020年7月6日だったとすれば、そこから5年後の2025年7月6日に時効を迎えてしまいます。
(2)権利を行使できる時から10年間
権利を行使できるときは、Aさんが誤振込をした時点です。
それが2020年7月1日だったとすれば、誤振込に気づかなかったとしても、10年後の2030年7月1日に時効を迎えてしまいます。
【まとめ】不当利得とは法的に正当化されない利益で、取り戻せる可能性がある
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 不当利得とは、法律上受け取る権利がないにもかかわらず、他人の財産又は労務によって受けた利益のこと。
- 不当利得を返還するよう求めるためには、次の4つの要件を満たす必要がある。
- 他人の財産または労務によって利益を受けること
- 他人に損失を及ぼしたこと
- 利益と損失との間に因果関係があること
- その利益に法律上の原因がないこと
- 不当利得の返還請求は、次のステップを踏む。
証拠収集→(証拠収集や回収見込みについて弁護士に相談)→交渉→裁判
- 不当利得返還請求をする権利には消滅時効があるため、消滅時効が完成する前に行動する。基本的に、消滅時効は次の2つの時点のいずれか早い方で完成する(※)。
- 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき
- 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき
※ただし、民法改正に伴い、改正前の時効期間が適用される場合もあるなど判断が難しい場合もあるため、弁護士などの専門家に相談することがおすすめ。
不当利得返還請求をするには、一般民事を扱っている弁護士に相談することをおすすめします。
また、過払い金の不当利得返還請求についてはアディーレ法律事務所も取り扱っております。
過払い金の請求は、場合によっては数十万円から数百万円にもなりますが、時効によって返還請求ができなくなることも少なくありません。
過払い金の請求を含む不当利得返還請求は、本来あるべき、あなたの正当な権利の実現するための手段です。
時効で請求できなくなってしまう前に、なるべく早く行動に移しましょう。
アディーレ法律事務所では、負債が残っている業者に対する過払い金返還請求をご依頼いただいたのに所定のメリットがなかった場合、当該手続にあたってアディーレ法律事務所にお支払いいただいた弁護士費用を原則として全額ご返金しております。
また、完済した業者への過払い金返還請求の場合は、原則として、弁護士費用は回収した過払い金からのお支払いとなりますので、あらかじめ弁護士費用をご用意いただく必要はありません。
(2022年6月時点。業者ごとに判断します)
過払い金返還請求でお悩みの方は、過払い金返還請求を得意とするアディーレ法律事務所にご相談ください。