「実家の父が亡くなった。私たちきょうだいも実家を相続することになるけれど、実家にはまだ母がいるから、そのまま住み続けられるようにしてあげたい。そのために、何か特別な手続きは必要になるの?」
夫婦の一方が亡くなった場合、残された配偶者がそのまま自宅に住み続けることを希望することは少なくありません。
配偶者と子どものいる人が亡くなった場合、法定相続人は配偶者と子どもになります。
例えば、自宅が亡くなった父親の所有であれば、通常は残された母親と子どもが自宅を相続することになりますが、相続に伴う母親の負担を少なくし、自宅に住み続けられるようにするには、どのようにすれば良いのでしょう。
さらに、将来的に母親も施設などに入って実家に誰も住まなくなれば、相続した自宅はどうすれば良いのでしょうか。
今回の記事では、次のことについて弁護士が解説します。
- 持ち家住宅率と高齢者の割合
- 配偶者居住権の内容
- 相続した家が空き家になった場合
アディーレ法律事務所
同志社大学、及び、同志社大学法科大学院卒。2009年弁護士登録。アディーレに入所後、福岡支店長、大阪なんば支店長を経て、2022年4月より商品開発部門の統括者。アディーレがより「身近な法律事務所」となれるよう、新たなリーガルサービスを開発すべく、日々奮闘している。現在、神奈川県弁護士会所属
両親の持ち家を相続する人は多い
総務省による住宅・土地統計調査によれば、現住居を所有しているという持ち家住宅率は、61.2%となっており、高齢者(65歳以上)のいる世帯に限ると、持ち家住宅率は82.1%とより高い割合となっています。
高齢の両親が亡くなり、その子が両親の住んでいた家を相続するケースは、非常に多いといえるでしょう。
また、両親が、実際に住んでいる現住居以外の住宅を所有していることもあり、世帯の家計を支える人の年齢が高くなるほど、その割合が高くなる傾向があります。
例えば、家計を主に支える人が70歳~74歳の場合、約13.8%の割合で現住居以外の住宅を所有しています。
現住居以外の住宅は、別荘目的であったり、賃貸目的や投資目的のほか、親族が住んでいたりするケースもあるようです。
そこかしこで、両親の家の相続が起こっています。
それでは、ケース別に相続した家をどうすれば良いのかについて解説しましょう。
なお、いずれの場合も遺言書はないものとします。
【ケース1】高齢の妻が、相続した家に1人で住むケース
被相続人(亡くなった人)の相続人が、妻と子ども2人であるケースを想定します。
配偶者の法定相続分は2分の1、子ども2人の法定相続分はそれぞれ4分の1ずつとなります。
相続の方向性に、相続人間で争いがなければ、特に問題が生じることは少ないでしょうが、残念ながら争いが生じてしまうこともあります。
例えば、子どもが「相続したのだから、自分にも家をどうするかについて決める権利がある。私は家を売りたいから、お母さんが住み続けることに同意はできない」と言うようなケースです。
もっとも、被相続人の配偶者には、亡くなるまで、あるいは一定の期間、その住宅に住み続ける権利がありますので、次で詳しく説明します。
遺産分割協議が成立するまで、妻は無償で住める
相続開始時(被相続人が亡くなった時点)において、被相続人の遺産である住宅に住んでいたのであれば、被相続人の配偶者は、遺産分割協議の成立日まで、または相続開始から6ヶ月が経過する日までは無償でその住宅に住むことができます(民法1037条:配偶者短期居住権)。
もっとも、次のケースでは、相続などによりその住宅を取得した人は、配偶者短期居住権の消滅を申し入れることができます。
- 配偶者以外の者にその住宅が遺贈された
- 配偶者が相続放棄した
配偶者短期居住権の消滅の申入れがあったからといって、すぐに住んでいる住宅から出ていかなければならないわけではありません。
配偶者短期居住権の消滅の申入れを受けた日から6ヶ月間は、無償で建物に住み続けることができます。
配偶者居住権を取得することで、妻が生活するためのお金も確保できる
先述のとおり、配偶者の法定相続分は2分の1、子ども2人の法定相続分はそれぞれ4分の1ずつとなります。
例えば、遺産が、2000万円の価値がある家と2000万円の預金であったケースを想定しましょう。
妻が現住居に住み続けるために、妻が家、子ども2人はそれぞれ預金を1000万円ずつ相続すれば、妻は今後の生活のための現金をまったく受け取れないことになってしまいます。
次に、遺産が、2000万円の価値がある家と1000万円の預金であったケースを想定しましょう。
妻が、現住居に住み続けるために2000万円の家を相続したら、妻が子ども2人に、代償金としてそれぞれ250万円ずつ支払わなければならないことになり、お金を持っていなければ困ってしまうことになります。
当面の生活資金などのため、被相続人の預金を引き出したい場合について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
そこで、「配偶者居住権」の出番です。
例えば、家の所有権と居住権を分けて、妻が居住権、子どもが所有権を取得するという遺産分割協議をすることが可能です。
例えば、遺産が、2000万円の価値がある家と2000万円の預金だとします(合計4000万円)。
この場合、配偶者居住権の評価額が800万円だとすると、妻は預金を1200万円相続できます。
配偶者は、配偶者居住権(800万円)と預金(1200万円)を合計した2000万円分(法定相続分である2分の1)を相続することになり、子ども2人は、家の所有権と残りの預金をそれぞれ均等に相続することになるからです。
また、遺産が、2000万円の価値がある家と1000万円の預金である場合(合計3000万円)、配偶者居住権の評価額が800万円だとすると、妻は預金を700万円相続できます。
配偶者は、配偶者居住権(800万円)と預金(700万円)を合計した1500万円分(法定相続分である2分の1)を相続することになり、子ども2人は、家の所有権と残りの預金をそれぞれ均等に相続することになるからです。
配偶者居住権について詳しくはこちらの6記事をご覧ください。
配偶者居住権の評価額について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
参考:残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されます。 | 法務省
もちろん、妻に自分自身の財産があり、他の相続人(今回のケースでは、子ども)に代償金を支払えるのであれば、妻が家の所有権を相続することも選択肢のひとつでしょう。
【ケース2】誰も住まない家は処分を検討する
両親ともに亡くなって実家に住む人がいなくなったり、施設に入っていた親が亡くなり、すでに誰も住んでいなかった実家が相続財産になったりした場合はどうでしょう。
このような場合、子どもが1人であれば1人で全部相続することになり、子どもが複数であればその頭数で均等に相続することになります。
「両親の思い出のある実家だから、売却するのには抵抗がある」と感じるかもしれません。
しかし、誰も住んでいない家であっても、固定資産税・都市計画税は毎年かかります。
自身でも不動産を購入して所有している場合、その分の税金も毎年かかってきますし、積み重ねによる負担は大きいと考えられます。
もっとも、住宅やマンションなど、居住できる建物の敷地は、次のような特例により固定資産税が軽減されています。
面積 | 税負担 |
200平方メートル以下の住宅用地 (小規模住宅用地) | 課税標準となるべき価格の6分の1 (地方税法349条の3の2第2項) |
200平方メートルを超えた部分 (一般住宅用地) | 課税標準となるべき価格の3分の1 (地方税法349条の3の2第1項) |
参考:固定資産税 | 総務省
ただし、空家等対策の推進に関する特別措置法の「特定空家等」に指定されると、特例による固定資産税の軽減はありませんので、ご注意ください。
周囲に危険を及ぼすような、管理のされていない空き家が近年問題となっています。
相続した家が放置され、いわゆる「ゴミ屋敷」のような状態になっており、衛生上の問題などが生じているのであれば、課される固定資産税が大幅に増してしまうでしょう。
参考:空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報 | 国土交通省
一方で、相続した空き家を売却した場合には、一定の要件を満たせば3000万円まで控除が受けられることがあります。
参考:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例 | 国税庁
【ケース3】家を処分したくない相続人がいたら、その人に引き取ってもらう
遺産の分割方法は、主に次の4つになります。
- 現物分割:その形状や性質を変更することなく分割する方法。土地であれば物理的に分割することも可能だが、家の場合、分割方法として現実的ではない。
- 換価分割:売却して得られた金銭を分割する方法
- 代償分割:1人の相続人に相続させる代わりに、他の相続人に対して相続相当分の代償金を支払う債務を負担させる方法
- 共有分割:相続人の共有とする方法
相続した家を処分したくても、相続人の中には、「思い出のある実家を処分したくない」と考える人がいるかもしれません。
相続人全員で遺産分割協議を行い、特定の相続人が家を取得すると決めることも可能ですので、家を処分したくない相続人がいれば、「代償分割」によって、遺産分割を行うことになるでしょう。
遺産分割協議は、原則として相続人全員で行うことが必要です。
相続手続きだけでなく、相続人の調査をするためにも戸籍が必要になりますので、戸籍の取得方法について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
【まとめ】相続した親の家に誰も住まなくなれば、処分することも検討すべき
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 総務省の調査によると、高齢者世帯の持ち家住宅率は82.1%となっている
- 被相続人の配偶者には、亡くなるまで、あるいは一定の期間、現住している住宅に住み続ける権利が認められている
- 家の所有権と居住権を分けて、妻が居住権、他の相続人が所有権を取得するという遺産分割協議をすることが可能
- 誰も住まない家は処分を検討すると良い
- 相続した家を処分したくない相続人がいれば、「代償分割」によってその相続人に家を取得させることも可能(原則として、相続人全員による遺産分割協議が必要)
相続では、さまざまな問題が生じ得ます。
相続人間で意見が異なる場合はもちろん、相続人間で意見が一致していたとしても、相続した家を売却したくても買い手が見つからないなどといった問題が生じることもあります。
遺産分割の方法や内容でお悩みの方は、税理士や弁護士のような専門家に相談しておくと良いでしょう。
アディーレ法律事務所は、遺産分割について積極的にご相談・ご依頼を承っております。
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というものがあります。
すなわち、アディーレ法律事務所では、弁護士にご依頼いただいたにもかかわらず、結果として一定の成果を得られなかった場合、原則としてお客さまの経済的利益を超える費用はご負担いただいておりません。
なお、ご依頼いただく内容によって、損はさせない保証の内容は異なりますので詳細はお気軽にお問い合わせください。
※以上につき2023年2月時点
遺産分割についてお困りの方は、アディーレ法律事務所(フリーコール「0120-554-212」 )にご相談ください。