- 借金返せないから自己破産の申立てをしたけど、思わぬ大きな財産が手に入ったので、やっぱり自力で返したい
- 破産申立てしたけど、制限職種(※破産手続中、就けない職業など)に転職することが決まったので他の債務整理手続に変えたい
このような方もいるでしょう。
では、自己破産の取消しはできるのでしょうか。
破産手続開始決定が出る前と、後とで、自己破産の取消しの可否は大きく変わります。
弁護士が、自己破産の取消しについて解説します。
早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。
自己破産の取消し(キャンセル)は可能
自己破産の申立てをした後でも、なんらかの理由で自己破産を取り消したいと思った場合、タイミングによっては、「破産手続開始の申立ての取下げ」をすることにより破産申立てをキャンセルできる場合があります。
自身で破産手続を行っている場合には直接裁判所に破産手続開始の取下げを申し出る必要があります。
弁護士を通じて破産手続を行っている場合は、弁護士に相談をすることになります。
自己破産取消し(申立ての取下げ)が可能なタイミング
裁判所が破産手続開始決定を出す前は、原則として自由に破産手続開始の申立ての取下げをすることができます。
しかし、裁判所が破産手続開始決定を出した後は、破産手続開始の申立ての取下げはできなくなってしまうので注意が必要です(破産法29条)。
破産手続開始の申立てをした後、破産手続開始決定が出るまでの時間は、事案により異なりますが、当日に開始決定が出ることもあれば、週単位・月単位で時間がかかることもあります。
いずれにせよ、すぐに開始決定がでてしまうことも想定して、自己破産の取消しを決断したら、すぐに取下げの手続を取ることが重要です。
自己破産の手続には書類の準備などである程度の期間が必要となるため、焦って自己破産の申立てをしてしまうケースがあります。
しかし、自己破産を取り消したいと思ってもタイミングを逃すと、破産手続開始の申立ての取下げができなくなくなってしまう可能性があることに加え、破産には所定の費用が必要になります。
よく検討してから破産申立てを行う必要があります。
なお、破産手続開始決定の前であっても、例外的に、差押えの中止命令など、一定の命令・処分がなされている場合には裁判所の許可がないと破産手続開始の申立ての取下げができない場合があります(破産法29条第2文)。
※詳しくは専門家にご相談ください。
「破産手続開始決定の取消し」と、「破産手続開始の申立ての取下げ」は違う
自己破産の取消しというのは法的用語ではありませんが、一般的には、
- 破産手続開始決定の取消し
- 破産手続開始の申立ての取下げ
のどちらか、または双方の意味で使うことが多いです。
「破産手続開始決定の取消し」と、「破産手続開始の申立ての取下げ」は法的に意味が異なりますので、ここでご説明します。
【破産手続開始決定の取消し】
「破産手続開始決定の取消し」は、裁判所が開始決定を出した後に、即時抗告(裁判所の決定に不服があると申立てること)を経て、裁判所が、破産手続開始決定を取り消すことをいいます(破産法33条)。
破産手続開始の原因がない(例:支払不能でない)等と判断される場合は「裁判所が」自己破産開始決定を取り消す決定をしますが、このような取消し決定が出ることは滅多にありません。
そのため、破産開始決定を受けた人が自由に取り消すことはできません。
【破産手続開始の申立ての取り下げ】
破産開始決定が出る前に、申立てした人が、申立てを取り消す(取り下げる)ことです。
破産開始決定が出る前までは原則として自由に申立てを取り下げることができます。
このように、破産開始決定が一旦出てしまうと、滅多なことがない限り自己破産の取消しはできなくなりますので、自己破産の取消しをするタイミングに気を付けましょう。
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申立ての取下げに費用はかかる?
破産手続開始の申立ての取下げをした場合、追加で費用がかかることはあるのか、着手金や裁判所への費用などは戻ってくるのかを説明します。
【裁判所へ支払う費用】
破産手続開始の申立ての取下げをすること自体には、裁判所に支払う追加の費用は発生しません。
【弁護士や行政書士に支払う費用】
弁護士や行政書士へ支払っている着手金などの弁護士費用がどの程度返金されるのか、または全く返金されないのかは、個々の事案によって異なります。
まずは依頼している弁護士や行政書士に確認・相談しましょう
申立て取下げの場合、信用情報はどうなる?
信用情報に破産をしたなどの事故情報が載ることを、俗に「ブラックリスト」に載るといいます。
自己破産を取り消した場合(申立てを取り下げた場合)、信用情報の取扱いは、次の2通りです。
- 破産手続開始の申立てをした事実がそもそも載らないか、
- 破産手続開始の申立てにより一旦は「破産手続開始の申立てをした事実」が信用情報に載るが、破産手続開始の申立ての取下げ後、当該事実は削除される
どちらの扱いになるのかは、次のように、債権者(お金を貸している側)である金融機関がどこの信用情報機関に加盟しているかによって異なります。
※信用情報機関に加盟していない個人からの借入れしかない場合は、信用情報は関係ありません。
また、一定の事故情報はCIC、JICC、KSCという信用情報機関にて共有されています。
【破産に関し登録される内容・期間】
信用情報機関(※) | 破産に関し登録される内容 | 破産申立て・取り下げの扱い |
---|---|---|
CIC(株式会社シー・アイ・シー) | 破産開始決定・免責の有無 | 破産申立てだけでは登録されない(申立て取下げしたら、破産に関しては信用情報が登録されないままとなる) |
JICC(株式会社日本信用情報機構) | 破産手続開始申立ての有無 | 破産手続開始の申立てをすると一旦はその旨が信用情報に登録されるが、申立て取下げを加盟会社が登録すると、当該記載は削除される |
KSC(全国銀行協会) | 破産手続開始決定の有無 | 破産申立てだけでは登録されない |
※CIC:主にクレジットカード会社が加盟する信用情報機関
JICC:主に消費者金融が加盟する信用情報機関
KSC:銀行や信用金庫、信用保証協会などが加盟する信用情報機関
借入れをする金融機関によって、どこの信用情報機関に登録されるかは異なります。
CIC、JICC、KSCの3つの信用情報機関に問い合わせると、どの金融機関からの借入れがどの信用情報機関に登録されているか確認できます。
参考:CICが保有する信用情報|割賦販売法・貸金業法指定信用情報機(CIC)
参考:登録内容と登録期間|信用情報機関 株式会社 日本信用情報機構(JICC)
参考:センターの概要|一般社団法人 全国銀行協会
参考:CICとは|割賦販売法・貸金業法指定信用情報機(CIC)
参考:加盟会員について|信用情報機関 株式会社 日本信用情報機構(JICC)
参考:全国銀行個人信用情報センターのご案内|一般社団法人 全国銀行協会
自己破産の申立ての取下げをしても延滞に関する信用情報は残る
ただし、自己破産の申立ての取下げをしても、すでに金融機関からの借金の返済を61日以上または3ヶ月以上延滞している場合には注意が必要です。
この場合、延滞情報が事故情報として信用情報に載る可能性があり、自己破産の取消しをしても延滞情報が取り消されるわけではないからです。
延滞情報を削除するためには、基本的には
- 自力で完済するか、
- 任意整理や個人再生等を完遂するかなどをして、
金融機関からの借金をなくした時点から一定の期間(5年など)を経る必要がありますので、注意しましょう。
参考:「信用情報開示報告書」表示項目の説明|割賦販売法・貸金業法指定信用情報機(CIC)
自己破産以外の債務整理を含めて慎重な判断を
自己破産を含む債務整理は、今後の生活を大きく左右する手続です。
自己破産の手続を始めてから取り消したいと思った場合、そのまま自己破産を進めるのか、その他の債務整理の方法(後述する任意整理・個人再生など)を選ぶのか、債務整理をしないで返済プランを考えるのかなど、慎重に選択しなければいけません。
どのような方法が適しているのか、弁護士などの専門家に相談しましょう。
任意整理と個人再生とは?
- 任意整理:
利息制限法の上限金利(15~20%)に金利を引き下げて再計算(引き直し計算)した上で、
残った債務につき、貸金業者と利息カット・長期分割を目指して交渉し和解が成立すればこ
れに従って返済をしていく手続です。
必ずしも裁判所を通す必要はないため、個人再生と比較すると手続の自由度は高いのです
が、個人再生と比べると、負債の減額幅は小さいことが多いです。 - 個人再生:
「個人再生」とは、裁判所を通す手続きであり、返済が困難な方が、引き直し計算後、さら
に減額された負債(※)を、原則3年間で分割して返済していくという手続です。
※保有している資産の額が負債額より多い方などの場合は、減額されない場合もあります。 借金の額や保有している資産の額などによって異なりますが、通常は、任意整理よりも大幅
に負債が減額されることが多いです(税金など減額されない負債が一部あります)。
詳しくは、こちらの記事もご確認ください。
【まとめ】自己破産の申立てを取り下げたいとお考えの方は弁護士に相談を!
裁判所が手続開始を決定する前までであれば、原則として自由に自己破産の申立てを取り消すことができます。
しかし、破産手続開始決定が出るとまず自己破産を取り消すことはできません。
破産したくなくともそのまま破産手続が進んでいくことになりかねませんので、自己破産の申請は慎重に、そして取り消したいと思った時には弁護士などに速やかに相談した上で申立てを取り下げなければなりません。
破産するかどうかでお悩みの方は、アディーレ法律事務所にご相談ください。