「成人年齢が20歳から18歳になる」、そんなニュースを耳にした方もいらっしゃると思います。
そうなのです。
明治9年からずっと、日本の民法では成人年齢(法律上は「成年年齢」と言います)は20歳とされてきました。
ですが、その民法が2018年に改正され、いよいよ2022年4月1日から、日本では18歳以上の方が成人とされるのです。
世界の国々を見ても、イギリス、フランス、ドイツ、カナダなど18歳以上を成人とする国の方がむしろ多数派です!
そこで、今回の記事では、民法による成人年齢の引き下げにより、何が変わるのか、また何が変わらないままなのか、具体的にご説明します。
慶應義塾大学卒。大手住宅設備機器メーカーの営業部門や法務部での勤務を経て司法試験合格。アディーレ法律事務所へ入所以来、不倫慰謝料事件、離婚事件を一貫して担当。ご相談者・ご依頼者に可能な限りわかりやすい説明を心掛けており、「身近な」法律事務所を実現すべく職務にまい進している。東京弁護士会所属。
成人年齢の変更により何が変わる?
成人年齢が18歳になるということは、次の2点で重要な意味があります。
(1) 18歳以上になれば、1人で有効な契約が出来るようになる
(2) 18歳以上になれば、親権には服さない
それぞれご説明します。
(1) 18歳以上になれば、1人で契約が出来る(親が取消しできない)
まず前提として、民法上、未婚の未成年者は1人で契約できません。
未婚の未成年者が、親の同意なく、自分の名前で1人で契約しても、原則として、後から親がその契約を取消しできます。小遣いの範囲で日常の買い物程度は出来ますが、基本的には、未成年者が契約を結ぶ時には親の同意が必要なのです。
ですから、これまで18歳・19歳の方が自分の名前で1人でスマホを契約したり、1人暮らしをするために部屋を借りる契約をすることは出来ませんでした。
ですが、2022年4月1日以降は、18歳以上は成年ですから、親の同意がなくても1人で契約が出来るようになります。具体的には、次のような契約が可能です。
・スマホの契約
・部屋の賃貸借契約
・クレジットカードの契約
・車やバイクの購入やそれに伴うローン契約など
※ただし、それぞれ収入面などから審査に通らない場合はあります。
とは言え、18歳と言えば、まだ高校生という方もいるでしょう。
これまでは、20歳未満の未成年者がした契約は、後から親が取り消すことが出来ましたが、2022年4月1日以降は、18歳以上の方のした契約は親であっても原則として取り消すことが出来なくなります。
若者をだまして契約をさせようという悪徳業者もいます。契約に関する知識が不十分なまま安易に契約をすることは危険です。特に高額な買い物などは十分に注意して、周囲に相談するなどをお勧めします。
悪徳業者にだまされて被害にあったという場合には、至急、消費者ホットライン(局番なし188)に連絡してください!
(2) 18歳以上になれば、親権に服さない
親権とは何ですか?
親権とは、未成年者(※未婚の場合)を一人前に育てるために、親が子どもを監護・養育したり、子どもの財産を管理したりすることです。
ですから、成人年齢の変更により18歳以上になれば、次のようなことが自分で決められるようになります。
・自分の住む場所を自分の意思で決めること
・進学や就職などの進路について自分の意思で決めること
・自分の財産を自分で管理することなど
とはいえ、進路は将来を左右する重大事です。
親や周囲に相談しながら決めることをお勧めします。
その他の具体的に変わること
それでは、先ほどご説明した変更以外にも、具体的に変わったことをいくつかご紹介します。
女性が結婚出来る年齢が16歳⇒18歳になる
従来の民法では結婚出来る年齢は、女性は16歳以上、男性は18歳以上でした。
今回、成人年齢が18歳以上になったことに伴い、2022年4月1日からは、男女とも結婚出来る年齢が18歳以上になります。
ただし、2022年4月1日時点ですでに16歳以上の女性(具体的には2006年4月1日までに生まれた女性)は、18歳未満であっても従前どおり結婚をすることが出来ます。
なおこれまでは、未成年者(20歳未満)が結婚する時は、父母の同意が必要でした。しかし成人年齢が18歳となることにより、18歳以上の男女が結婚する場合に、父母の同意は不要となります。
有効期間が10年のパスポートの取得
これまでは20歳未満の方は、旅券法という法律により有効期間が5年間のパスポートしか取得出来ませんでした。
ですが、2022年4月1日から、18歳以上の方であれば、有効期間が10年間のパスポートを取得することが出来るようになります。
性別の取扱いの変更の審判
性同一性障害の方が、戸籍上の性別を変更する際に必要となる、家庭裁判所の審判です。
従前は、審判を受けることが出来るのは20歳以上の方でしたが、民法改正により、2022年4月1日からは、18歳以上の方が申し立てることが可能になります。
訴訟の提起(裁判を起こすこと)
民事訴訟法では、未成年者は原則として訴訟能力がなく、1人で訴訟を提起することが出来ないとされています。
今回、成人年齢が18歳に引き下げられたことにより、2022年4月1日以降、18歳以上の方は1人で裁判を起こすことが可能になります。
医師免許の取得や資格の制限など
例えば、医師・歯科医師・獣医師などは、それぞれ法律により「未成年者には免許を与えない」と規定されています。
ですから、民法改正前は20歳以上でないと免許が取得出来ませんでした。
ですが、民法改正により、2022年4月1日以降は、成人である18歳以上は、医師や歯科医師の免許を取得できることになります。
また、公認会計士・司法書士・行政書士などは、それぞれ法律で未成年者であることが欠格事由とされています。
ですから、民法改正前は20歳以上でなければそれらの仕事に就くことが出来ませんでしたが、2022年4月1日以降、18歳以上は成人となりますので、18歳以上の方はそれらの仕事に就くことが可能になります。
成人年齢が18歳になっても変わらないこと
成人年齢が20歳から18歳に引き下げられても、それまで通りで変わらないこともあります。
例えば、次の行為は18歳になっても出来ません。
・飲酒
・喫煙
・競馬、競輪、モーターボートなどの公営競技
え、そうなんですか?
18歳になったら成人だからお酒を飲もうと思っていたんですけど…。
ダメです。
お酒もタバコも公営競技も、健康面や非行・ギャンブル依存の防止などの観点から今までどおり20歳以上にならないと出来ません。
また、次のものも、2022年4月1日以降も変わりません。
・大型二輪免許や普自動車免許の取得⇒18歳以上
・原付免許や普通二輪免許の取得⇒16歳以上
・国民年金被保険者の資格⇒20歳以上
・養子をとることが出来る年齢⇒20歳以上
その他のQ&Aを解説
それでは、その他成人年齢の引き下げに関するQ&Aをご紹介しましょう。
成人式も18歳に行われることになるの?
A.成人式を行っているのは各自治体ですので、成人式をいつのタイミングで行うかは各自治体の判断になります。
ただ、18歳と言えば高校3年生で受験や就職を控えた方も多いので、18歳の1月のタイミングで「成人式」を行うことには全体として消極的な流れです。
「成人式」という名称から「はたちのつどい」などと名称を変え、これまでどおり20歳の方を対象に式典を実施するという自治体も多いようです。
2022年4月1日の時点で19歳の人ってどうなるの?
A.2022年4月1日時点で18歳や19歳の方(具体的には2002年4月2日から2004年4月1日までに生まれた方)は、2022年4月1日から成人になります。
選挙権は何歳から認められるの?
A.選挙権については、公職選挙法が一足早く改正・施行され、既に18歳以上の方に認められています。
参照:選挙権と被選挙権|総務省
裁判員に選ばれるのは何歳から?
A.現在は20歳以上ですが、2022年4月1日からは18歳以上の方が対象となります。
なお、裁判員の候補者に選ばれると、裁判所が「裁判員候補者名簿」に名前を登録して、毎年11月に各候補者に「名簿記載通知」を発送します。
ですので、実際に18歳以上の方が裁判員に選ばれるのは2023年以降になります。
株の取引は?NISAってどうなるの?
A.現在、NISAは20歳以上の方が利用出来る一般NISA・つみたてNISAと、20歳未満の方が利用出来るジュニアNISAがあります。
成人年齢の引き下げにより、2023年1月1日時点で18歳以上の方は、一般NISA・つみたてNISAを利用出来るようになります(ジュニアNISAはもともと利用者が少なかったということもあり、新規口座の開設は2023年末で終了します)。
参照:NISAとは?|金融庁
少年法の改正ってよく言われていますけど、18歳以上だと少年法は適用されなくなるの?
A.いいえ。20歳未満であれば、18歳や19歳であっても引き続き少年法が適用されます。ただし、少年法の改正により、18歳・19歳の少年は「特定少年」と言って、17歳以下の少年とは異なる取り扱いを受けます。
例えば、逆送決定(家庭裁判所において、成人と同様に刑事処分を受けるのが相当と判断される場合です)がされる対象の事件が広がったり、逆送後に公判請求された場合(公開法廷で裁判を受けるべきと判断されて検察官に起訴されること)には、実名報道が許されるなどに変更されました。
親が離婚した場合の養育費って、どうなるの?
18歳までしかもらえないの?
A.もともと、養育費は「未成熟の子」の養育のための費用であって、必ずしも未成年かどうかとはイコールではありません。
離婚時に「子供が●歳になるまで養育費を支払う」と取り決めた場合には、民法改正とは無関係に子供が●歳になるまで養育費の支払義務は続きます。
他方、「子供が成人するまで養育費を支払う」と取り決めた場合には、当時の成人年齢が20歳のため、親の意思としては20歳まで支払うということが前提ですから、それまでどおり20歳まで養育費の支払義務は続くと考えられています。
成人年齢の引き下げと養育費の支払について詳しくはこちらの記事もご確認ください。
【まとめ】18歳以上になれば一人で契約することが出来るようになる
今回の記事のまとめは、次のとおりです。
・民法の改正により、2022年4月1日からは成人の年齢が18歳となる。
・2022年4月1日時点で18歳・19歳の方は、その日から成人になる。
・成人年齢の変更により変わること、変わらないことの具体例は次のとおり。
民法改正で変わること | |
---|---|
1人で契約できる年齢 例:スマホの契約 クレジットカードの契約 部屋の賃貸借契約 車やバイクのローン契約 など | 20歳⇒18歳 |
女性が結婚できる年齢 | 16歳⇒18歳 |
10年のパスポートの取得 | 20歳⇒18歳 |
性別の取扱い変更の審判申立て | 20歳⇒18歳 |
訴訟の提起(裁判を起こすこと) | 20歳⇒18歳 |
医師・歯科医師・獣医師などの免許取得 | 20歳⇒18歳 |
公認会計士・行政書士・司法書士などの資格取得 | 20歳⇒18歳 |
民法改正で変わらないこと | |
---|---|
飲酒 喫煙 競馬などの公営ギャンブル | いずれも20歳 |
男性が結婚できる年齢 | 18歳 |
大型二輪・普通自動車免許の取得 | 18歳 |
原付免許・普通人免許の取得 | 16歳 |
国民年金被保険者の取得 | 20歳 |
養子をとることのできる年齢 | 20歳 |
2022年4月1日から18歳以上は成人となりますが、18歳と言えば、まだ高校生という方も多いでしょう。
1人で契約をすることも増えますが、安易に契約してしまうと後々トラブルになったり悪徳業者に騙される危険があります。
そのような消費者トラブルにあわないように、しっかりと契約に関する知識をつけることが大切です。
また、万が一消費者トラブルにあった場合には、消費者ホットライン(局番なし188)にご相談ください。