2024年9月に行われた自民党総裁選や、続く翌10月の衆議院総選挙でも「解雇規制の緩和」が争点の一つとなりました。この問題は多くの国民の関心を集め、社会的な議論を巻き起こしています。
よく「日本の解雇規制は厳しい」と言われることもありますが、そもそも日本の法律は、解雇についてどのように定めているのでしょうか。
また、解雇規制が緩和された場合、いったいどのようなメリット・デメリットが予想されるのでしょうか。
この記事では、これらの疑問にわかりやすく回答します。
この記事を読んでわかること
- 現行の解雇規制
- 解雇の種類
- 解雇規制の緩和のメリット・デメリット
ここを押さえればOK!
解雇規制は労働市場の安定にも寄与し、消費者としての購買力低下を防ぐことで経済全体に良い影響を与えます。
現行の解雇規制には、労働基準法や労働契約法があり、解雇の予告期間や、解雇には合理的な理由が必要とされることなどが定められています。
解雇の種類には、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇の3種類があり、企業側の都合で行われる整理解雇は、有効性の判断基準が判例により確立されています。
解雇規制の緩和にはメリットとデメリットがあります。
メリットとしては、人材の流動性が高まり、労働者がより適性に合った仕事に就きやすくなること、給料が上がりやすくなること、非正規雇用の減少が挙げられます。
一方、デメリットとしては、労働者の地位が不安定になること、企業の採用コストが増大することがあります。
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解雇規制とは?
解雇規制とは、企業側が労働者を解雇することを制限する法律などの総称です。解雇規制の目的は、労働者の雇用を安定させ、その経済的基盤を守ることにあります。
労働基準法や労働契約法などの法律だけでなく、判例も解雇規制の主な根拠となり得ます。
解雇規制の背景には、労働者と企業の間の力関係の不均衡があります。企業は労働者に対して強い立場にあり、不当な解雇が行われるリスクが存在します。
これを防ぐため、後述のとおり解雇は法律で厳格に規制されています。
また、解雇規制は労働市場の安定にも寄与しています。労働者が容易に解雇される環境では、消費者としての購買力が低下し、経済全体に悪影響を及ぼす可能性があります。
そのため、解雇規制は経済の健全な発展に寄与する面もあるとされています。
このように、解雇規制は労働者の権利を守り、経済の安定を図るための重要な役割を果たしています。
現行の主な解雇規制
解雇規制の主な法的根拠は、労働基準法、労働契約法、そして裁判例です。
まず、労働基準法では、解雇に関する基本的なルールが定められています。
たとえば、労働基準法第20条では、解雇の30日以上前にその予告をすることが義務付けられており、それまでに予告しない場合には30日分以上の平均賃金を支払うことが必要です。
また、労働基準法第19条では、業務上の負傷や病気による休業中及び復帰後30日間、産前産後休業中およびその後30日間の解雇が禁止されています。
このほかにも、個別の法律により、国籍や性別、労働組合員であることを理由とした解雇などが禁止されています。
次に、労働契約法第16条は次のように定めています。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
つまり、企業は労働者を理由なく解雇することはできないうえ、その理由も何でもいいわけではなく、よほどのことがなければ解雇は認められません。
さらに、過去の裁判例が、解雇の適法性について詳細な基準を示しています。
企業と労働者の間で解雇に関する争いが生じた場合、過去の裁判で示された基準も参考になるでしょう。
解雇の種類
解雇は大きく分けて、普通解雇・懲戒解雇・整理解雇の3種類があります。
(1)普通解雇
普通解雇とは、主に労働者の債務不履行を理由とする解雇です。
たとえば、次のようなことが普通解雇の理由となり得ます。
- 能力や適性を欠く
- 規律違反等の非違行為
- ケガや病気による就業不能
(2)懲戒解雇
懲戒解雇とは、重大な規律違反の制裁として、企業が懲戒処分としてする解雇のことです。
たとえば、会社のお金を横領したり、重大な刑事事件を起こしたりした場合や、ひどいハラスメントの加害者となった場合には、懲戒解雇が検討されます。
ただし、労働者の不利益が非常に大きい処分であるため、その有効性は普通解雇に比べてより厳格に判断されることとなります。
(3)整理解雇
整理解雇とは、企業の経営上の都合により、人員削減を目的としてなされる解雇のことです。
整理解雇の有効性判断については、判例により要件が確立されており、具体的には次の4要件を満たす必要があるとされています。
- 人員削減が必要であること
- 企業が解雇を回避する努力をしたこと
- 被解雇者の人選が適当であること
- (説明・協議など)適正な手続を行ったこと
解雇規制の緩和のメリット・デメリット
では、どうして昨今、解雇規制の緩和が議論されているのでしょうか。
解雇規制を緩和することによるメリット・デメリットとして考えられている事項をご紹介します。
(1)メリット
まずは、解雇規制の緩和により生じると考えられているメリットです。
(1-1)人材の流動性が高まる
解雇が従来よりも簡単にできるようになれば、企業側が新たに人を雇うハードルも低くなると考えられます。
そうなると、転職が比較的容易になるため、労働者側にとっても、メリットがあります。
結果として、人材の流動性が高まり、個々人がより適性に合った仕事に就きやすくなるといえるでしょう。
(1-2)給料が上がりやすくなる
上記のように転職しやすい環境になれば、優秀な人材ほど条件のいいところに転職していくことになりやすいです。
そうなると、企業側としても、そういった人材の流出を防ぐために、労働条件や待遇の改善を検討せざるを得ません。
結果として、給料も上がりやすい環境になると考えられます。
(1-3)非正規雇用の減少につながる
解雇規制の緩和によって、解雇が現在よりも容易になれば、企業は正社員を気軽に雇用しやすくなります。
その結果、非正規雇用が減少し、現在問題となっている正規と非正規の待遇格差による弊害も減少すると考えられます。
(2)デメリット
次に解雇規制の緩和により生じると考えられているデメリットをご紹介します。
(2-1)労働者の地位が不安定になる
解雇規制の緩和により、今より簡単に労働者を解雇できるようになると、労働者の地位は当然不安定になります。
いつ解雇されるかもしれないという状況では、労働者が消費よりも貯蓄を優先したり、住宅や車などローンを組んで大きな買い物をすることが難しくなったりすることが想定され、景気への影響が懸念されます。
(2-2)企業の採用コストが増大する
人材の流動性が高まると、企業側の採用コストは増大します。
また、採用した労働者は長年勤めるものだという前提が崩れると、時間的・金銭的なコストを新人教育などに投じづらくなり、人材が育ちにくくなるといった弊害も考えられます。
(2-3)給料値上げや非正規雇用減少につながるとは限らない
解雇規制の緩和は、企業側の力を増大させるものです。
解雇を盾に給料を下げたり、非正規雇用への転換を迫ったりする企業が現れることも想定されるので、解雇規制の緩和が、必ずしも給料の値上げや非正規雇用減少という効果を生み出すとはいえず、逆の現象が起きることも十分考えられます。
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解雇規制の緩和における今後の展望
解雇規制の緩和は、労働市場の柔軟性を高め、企業の競争力を向上させるための重要な政策課題として注目されています。
経済成長を促進するために、解雇規制の緩和が検討されており、具体的な法改正や新たなガイドラインの策定が進められる可能性があります。
企業側もこの動向に対応するための準備を進めています。
解雇規制が緩和されることで、企業は人材の最適配置やコスト削減が容易になると期待されています。
しかし、これに伴い、労働者の不安を軽減するための適切な対応策が求められます。
たとえば、再就職支援や職業訓練の充実が重要な課題となるでしょう。
一方で、労働者側からの反発も予想されます。解雇規制の緩和は、労働者の雇用の安定性を損なうリスクがあるため、労働組合や労働者団体は強く反対する可能性があります。
このため、政府や企業は労働者の声を十分に聞き、バランスの取れた政策を実施することが必要になるでしょう。
また、海外の事例を参考にしながら、日本社会の風土に合った解雇規制の緩和策を模索することも重要です。
【まとめ】解雇規制の緩和でどのような影響があるか事前に知っておこう
解雇規制は労働者の権利を保護し、経済の安定を図るための重要な制度です。
現行の解雇規制の主な根拠は労働基準法、労働契約法、裁判例などであり、労働者の不当な解雇を防ぐ役割を果たしています。
一方で、解雇規制の緩和は労働市場の柔軟性を高め、企業の競争力を向上させるための重要な政策課題として注目されています。
解雇規制の緩和にはメリットもデメリットも存在しており、実際に解雇規制が緩和されるのかどうかは不明です。
もっとも、解雇規制の緩和による環境の変化に備え、事前に予想される影響について知っておき、今後の動向にも注目することをおすすめします。
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