「株式投資を始めたら、必ず確定申告をしないといけないのかな」
実は、株式投資をしていると確定申告をしなければならないケースがあります。
株式投資で確定申告が必要なケースとは、年間を通して株式の譲渡益が生じている場合であって、一定の条件を満たす場合です。
また、損失を出した場合のうち一定の場合には、確定申告をすると節税につながることもあります。
今回の記事では、次のことについて弁護士が解説します。
- 株式投資で生じる所得の種類
- 株式投資で確定申告をしなければならないケース
- 確定申告をすると節税につながるケース
早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。
株式投資の利益には税金がかかる
株式投資で利益が出る場合には、次の2種類の場合があります。
- 株式の配当金等:配当所得
- 株式の譲渡益(売却によって得た利益):譲渡所得
これらの所得がある場合には、所得に応じて税金を支払わなければなりません。
(1)配当所得
株式の配当金等については、配当所得として、配当金が支払われるタイミングで課税されます。
税金は、配当金が支払われる際に、金融機関に源泉徴収されます。
このことは、「源泉徴収ありの特定口座」で取引をしているのかどうかに関わりません。
(「源泉徴収ありの特定口座」については後でご説明します)
税率は、次のとおりの率です(申告分離課税を選択した場合)。
- 上場株式の場合(大口株主以外):20.315%(所得税および復興特別所得税15.315%、住民税5%)
- 非上場株式の場合(大口株主の場合を含む):20.42%(所得税および復興特別所得税20.42%、住民税なし)
(2)譲渡所得
株式の売却によって利益が出た場合の譲渡所得に課せられる税率は、上場株式もそれ以外の株式も、20.315%です。
株式の売却によって利益が出た場合の課税については、1年間(1月1日~12月31日)の譲渡益に対してなされます。
「源泉徴収ありの特定口座」で株式投資を行っている場合には、金融機関によって税金が源泉徴収されます。それ以外の場合には、確定申告をしなければなりません。
(3)「特定口座」と「一般口座」
株式投資を行うために証券会社に開設する口座には、「特定口座」と「一般口座」の2種類があります。
特定口座は、さらに、「源泉徴収ありの特定口座」と「源泉徴収なしの特別口座」に分かれます。
「源泉徴収ありの特定口座」とは、「特定口座」のうち、その口座で管理する上場株式等の譲渡によって損益が発生する度に、金融機関によって所得税等や住民税の源泉徴収が行われ、金融機関が代行して納税する口座のことです。
これに対して、「源泉徴収なしの特定口座」の場合、取引の度に源泉徴収は行われず、確定申告を行う必要があります。
もっとも、金融機関が作成した「年間取引報告書」を利用することで簡易な確定申告で納税をすることが可能となります。
「特定口座」とは、申告分離課税の対象となる上場株式等の譲渡益に対する所得税等の納税を、簡易な手続きで終えることができる制度のことです。
これに対して「一般口座」の場合には、金融機関ではなく自身で年間の譲渡損益を計算したうえで確定申告を行う必要があります。
多くの場合、最も簡単に納税を済ませることのできる「源泉徴収ありの特定口座」が利用されています。
株式投資で確定申告をしなければならないケースと無申告へのペナルティ
次のことについてご説明します。
- 株式投資で確定申告をしなければならないケース
- 無申告へのペナルティ
(1)株式投資で確定申告をしなければならないケース
原則として、次の条件のいずれにもあたる場合には、確定申告をしなければなりません。
- 株式投資によって年間を通じて利益(黒字)が出ている
- 「源泉徴収ありの特定口座」以外の口座(「源泉徴収なしの特定口座」または「一般口座」)を利用して株式投資をしている
このことを逆に言えば、次のいずれかにあたる場合には、確定申告をする必要がありません。
- 株式投資によって年間を通じて損失(赤字)が出ている
- 「源泉徴収ありの特定口座」を利用して株式投資をしている
もっとも、給与所得者であって、株式投資によって得た利益が年間20万円以下であるなどの一定の条件を満たす場合には、ここまででご説明した条件に関わらず確定申告は不要となります。
(2)無申告へのペナルティ
「自分は確定申告をしなければならない場合にあたるけれど、めんどうくさいな。確定申告をしなくてもいいかな?」
そのように考えてしまうかもしれません。
たしかに、確定申告は少し手間のかかる手続きです。しかし、確定申告をしなければならないのに確定申告をしないでいると、無申告に対するペナルティを受けることがあります。
無申告に対するペナルティには、無申告加算税などがあります。無申告加算税は、その名のとおり確定申告をしなければならないのにしなかった場合に課せられるペナルティとしての加算税です。
事情に応じて加算税の税率は変わりますが、最大で20%の加算税が課せられることもあります。
確定申告をしなければならない場合には、忘れずに確定申告しましょう。
確定申告をしていない場合のペナルティやデメリットについて、詳しくはこちらをご覧ください。
確定申告をすると節税につながるケース
株式投資で確定申告をしなければならないケースにあたらなかったとしても、任意で確定申告をすると納税額を抑えられて節税できるケースがあります。主なケースは、次のとおりです。
- 上場株式の譲渡損失と配当所得とを損益通算したい場合
- 複数の証券会社の口座間での損益について損益通算をしたい場合
- 損失を繰越控除したい場合
これらについてご説明します。
(1)ケース1|上場株式の譲渡損失と配当所得とを損益通算したい場合
「損益通算」とは、利益から損失を差し引くことです。
株式投資の損失は、原則として、他の所得との間で損益通算をすることができませんが、上場株式の譲渡損失についてその年の配当所得との間で損益通算をすることが可能となります。
たとえば、2022年の年間の損益が次の場合を考えてみましょう。
- 上場株式の譲渡損失:100万円
- 配当所得:10万円
この場合、この両者を損益通算すると、次のとおりとなります。
配当所得10万円-譲渡損失100万円=-90万円
もしも損益通算をしなかった場合には、配当所得10万円に対して税率20.315%をかけた2万315円の税金が源泉徴収されます。
しかし、このような損益通算をすれば、年間を通して90万円の損失となっており10万円の利益について相殺されているので、源泉徴収された2万315円が還付されることとなります。
(2)ケース2|複数の証券会社の口座間での損益について損益通算をしたい場合
複数の証券会社の口座を使ってそれぞれ株式投資をしている場合には、損失と利益は自動的には相殺されません。
この場合に損失と利益を相殺したいならば、確定申告をする必要があります。
確定申告をすることによって、複数の証券会社の口座それぞれで生じた損失と利益について損益通算をすることが可能となります。
(3)ケース3|損失を繰越控除したい場合
「繰越控除」とは、譲渡損失を翌年以降に繰り越して翌年以降に生じた利益との間で相殺することができる制度です。
繰越控除により、譲渡損失は、最大で3年間にわたって繰り越すことができます。
この繰越控除の適用を受けるためには、それぞれの年について確定申告をしていなければなりません。
例えば、次の場合を考えてみましょう。
2021年:190万円の損失
2022年:100万円の利益
2023年:20万円の利益
この場合、繰越控除をしなければ、2022年と2023年はそれぞれ利益が出ていることから、課税されることとなります。
これに対して、繰越控除を活用すれば、
-190万円+100万円+20万円=-70万円
となり、損失のほうが大きいことから、2021年から2023年までのいずれの年についても課税されないこととなります。
【まとめ】株式投資で利益が出た場合には原則確定申告が必要
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 株式投資で利益が出た場合には、所得の種類に応じて税金を支払わなければならない。
- 株式投資で確定申告をしなければならないケースとは、年間を通じて利益が出ている場合であって、「源泉徴収ありの特定口座」以外の口座を利用して株式投資をしている場合。
- 確定申告をしなければならないのに申告しないでいると、無申告加算税などのペナルティが課せられる。
- 確定申告が不要でも、上場株式の譲渡損失と配当所得とを損益通算したい場合など、確定申告をすると節税できるケースがある。
株式投資を行っていると、つい確定申告がめんどうになってしまい確定申告をしないで済ませたいと考えてしまいがちですよね。
しかし、株式投資を行っている場合であって確定申告をしなければならない場合にあてはまるのであれば、忘れずに確定申告をしなければなりません。
確定申告をしておけば、安心して株式投資を楽しむことができるはずです。
確定申告に関して疑問な点がある場合には、所轄の税務署など税についての相談窓口に相談してみてください。